※卒業後
沢北が帰国すると教えてくれたのは、同じ高校、大学を卒業した友人だった。電話の途中、どんな話の流れでそうなったか、まるで記憶がない。どちらもバスケットボール部の話はしていなかったはずだ。高校の話も。でも、突然思い出したように彼女が「沢北」という懐かしい名前を口にして、それからそう教えてくれた。
「仲良かったじゃん」
それは単なる世間話と思い出話の中間のような軽やかさでもって彼女の口から放たれたことだった。そう言われて、あー、と口から声が伸びる。うん。頷けばその事実なのか願望なのか分からないことを認めなくてはならない気がした。
「そうかも」
他の誰かから見ても『仲が良かった』と言われるのは気恥ずかしくて、つい誤魔化すような言い方になる。仲が良かった、なんていいことなのに。それが“いいこと”に思えない。
当時、誰かにそう言われるたびに「そんなんじゃない」と言いながら、それは少しずつ自分の中に蓄積していた。積もって、思い上がって、勘違いして。もしかしたらと勝手に期待した。
そうして傷にもなれないまま終わったものを、今でも傷跡みたいに大事に大事に抱えている。いっそ泣いてしまいたいほど馬鹿馬鹿しい。
「というか、好きだったでしょ? 昔」
「うん」
嘘の中に本音を混ぜて。また何かを誤魔化した。
そう、好きだったんだよ。昔。多分、今も。