『牧くんって——』。その後に続く台詞は大体決まってる。『大人っぽいよね』。何度も聞いた。『落ち着いてるね』。そりゃあ、いつも慌てているやつの方が少ないだろう。

 どれももう何度も聞いたよ。わざわざ言ってくれる必要もないくらい。相手にとっては初めて言った言葉でも、俺にとっても百万回聞いた言葉だよ。大袈裟だって? どうかな。君も俺になれば分かるのに。

 こんなこと言っても、年相応に見られたいわけじゃない。大人っぽいって言われて嫌な気がするわけじゃない。落ち着いていると思われるのはいいことだ。落ち着きがないって言われる百倍マシ。別に、相手校の一年に初見で「じい」なんて不名誉な渾名をつけられて癪に触っているわけじゃない。髪型変えたのは、見え方を気にしたんじゃなくて、ただの気まぐれ。というかおしゃれ。誓って、十八歳に見えるように、って思ったんじゃないさ。本当だ。

 だから、そんなに笑わなくてもいいだろう。何がそんなにおかしいんだよ。

 俺がおしゃれしてるのがおかしいか? 俺だって十八の高校生だ。毎日寝て飯食って勉強してバスケットして、確かにそればっかりだけど、たまに雑誌読むこともあるし。寮のやつがコンビニで飲み物と一緒に買ってくるやつを全員で回し読みだけど。でも、だから、なんとなくバスケ部は私服被りがち。……あ、これは笑う話だぞ。みんな揃いも揃って体がでかいから、買える服が限られるんだよな。世知辛い。

 いや、こんな話はどうでもよくて。おい、まだ笑ってるのか。ったく。

 とにかく、だから、その俺も髪型くらい変えることあるし。『じい』を気にしてじゃないって何度言えば分かるんだ。違うってば。

 でも。一応聞くけど、君だって仮にな。仮にだぞ? 自分の恋人が他のやつから『じい』って呼ばれてたらどう思う? 街で会った時、「あ、じい!」って隣のやつが呼ばれたら嫌だろう? 俺は嫌だ。だから、俺が気にしていなくても『じい』に見えない努力をするのは別に無駄なことじゃないんだよ。俺は十八なんだから。

 え? その体と顔ならお酒もタバコも買えるって? 買ったことないから知らんな。買えるだろうけど。一回家族でご飯行ったら父親の酒が俺の前に運ばれたこともある。……いや、今のは忘れてくれ。笑わなくていいから、忘れて。

 だから、今後のため、というか。まあ、それに近いか。

 君の隣を歩く男が『じい』に見えたら君が疑われるかもしれないし。困るだろう。なんでか、俺は制服姿なのに駅前でキャバクラのキャッチに声かけられるし。俺じゃなくて、スーツに見えるブレザーが悪いんだ。制服で歩いていてもバイシュンとか噂されたら君の名誉にも傷がつくし、というか、普通にそれは俺が傷つきそう。流石に。

 ん? なんで私のこと気にするかって?

 俺の話聞いてたか? 君の隣を歩きたいんだよ。友達でもクラスメイトでもなく。お父さんにもお兄ちゃんにも間違われたくないんだ。だから、十八に見える髪型に変えるし、流行りっぽい服も着る。俺は動きやすさ重視でデートにジャージ着て行ったりしないから安心してほしい。それやるの清田だけ。あ、これは言うなって言われてた気がする、忘れてくれ。

 つまり君の隣を歩けるなら、君に相応しい、似合いの男になるよ。そのくらい、努力のうちにも入んねぇさ。簡単なことだ。

 なあ、だから。——ああ、悪い。これを一番に言うべきだった。

君が好きだ。俺を、君の恋人にしてくれないか。