深津一成が天使であるはずがない。それはもう、あまりにも明白な事実である。にも関わらずこの男。ちょっと肌が生白いからといって、平気な顔で「天使」を自称してくる。深津は、清廉潔白でも高尚でもなく、まして背中に純白の翼など持たないどころか、人間の中でも「へんな人」にカテゴライズされる側であるというのに。

「――は?」
「間違えたピョン。キューピッドだピョン」

 深津はいたって真面目な顔でそう訂正する。3秒間、じっくりその言葉の意味するところを考えたところで、もう一度「は?」と問うた。意味がわからなかった。深津の話は半分がよく意味の分からないことで、辛辣すぎる正論が4分の1を占めている。あとの4分の1は割と普通の会話なので記憶がない。

 私の、「意味分かりません」という顔こそ意味が分からないという顔で、深津が私をじっと見据えている。あ、もう会話やめたいなと思った。真剣に。しかしここで話の流れを断ち切って逃げ出したとして、深津は地の果てまで追いかけて来るような男である。なんせ日本で一番走れるバスケ部出身らしいので、体力に底という概念がないのだ。

「……深津がキューピッドとは」
「あれ」
「どれ」
「松本と相田さんピョン」
「え?……あ。そういう」
「ピョン」

 会話なのか暗号なのか微妙な言葉のラリーを経て、ようやく理解する。つまりキューピッドって恋のキューピッド。天国に迷い込んだ罪人を射殺す方かと思ったけど違ったか。

 恋のキューピッド。というのも、今日、私と深津、会社の同僚である女の子と取引先の松本さんの4人で食事の約束をしている。会社の同僚は私の友人でもあり、松本さんは深津と同じ高校出身。彼女に「気まずいかもしれないから来て」と呼ばれていたが、気まずいではなく「恥ずかしい」の間違い。これはつまり「良い人紹介してよ」的なあれのようだ。
 いや。そうならそうと言ってほしい。てっきり社交辞令で取引先とご飯に行くことになった挙句、取っ付きにくさで社内一の深津が入って泣きたくなったのかと思ってしまった。

「もしかして私って邪魔?」
「邪魔じゃないピョン。キューピッドだピョン」
「ねえ、それ流行ってんの?」

 ヘルプのつもりで来たらどうやら要らなかったらしいという事実が分かり、正直先ほどから薄々感じていた帰りたさがぐんぐん上昇している。件の2人はまだ来ていないし、ここで「体調不良」と言って帰ってもいいのではないか。むしろ、それが正解では。悪魔が頭の中で囁く。

「流行りじゃないピョン。最近キューピッド業が忙しいピョン」
「あっ、そうなの。というか私やっぱり帰ろうか。いない方がいいよね」
「いた方がいいに決まってるピョン」
「え」
「今帰ったら残された側が気まずいピョン。途中で抜けるピョン」

 正論が真顔のキューピッドから飛んでくる。しかして、それもそうだと納得した。「分かった」と言い、その場に残ることを選ぶ。深津は心なしか安心したような顔をしていた。多分気のせい。
 本音は逃げたいし帰りたい気持ちでいっぱいだが、理由はなんであれ、直前でドタキャンするのは不誠実なので。帰らないならせめて美味しいものが食べたいなあと思う。「今日ってご飯何系?」と聞くと「知らないピョン」と言われて、会話はそこで終わった。

 結局4人で行ったのは洒落た感じでの創作居酒屋で、飲み物も食べ物も美味しくて大満足だった。こんな素敵な店、誰のチョイスかと思ったら深津だった。あの時隣にいた「知らないピョン」とか言っていた男は知らない人だったのかも。怖い。
 兎にも角にも食事は順調に進んだ。私と同僚が並んで座り、その向かいに深津と松本さん。並ぶと背が高くて、なんとなくスポーツマンという感じがした。

「二人とも強豪バスケ部出身なんですよね。背も高いし、すごいですね」

 そこで私と同じようなことを思ったのか、同僚が至極真っ当にそう会話を切り出したりして。私は「ねえ」と相槌を打ちながら、彼の部活動全部がへんな人の集まりではないんだなと思ったりした。深津は見るからにへんな人だが、松本さんはものすごくまともな人だった。まともなうえに人当たりが良く、背も高いし顔もそこそこ整っている。
 これは引く手数多だろうな。私の隣のいるのもその一人だけど。

「明日、朝イチで会議があるからそろそろ失礼するピョン」
「そうだったのか、深津」
「深津さん、そんな前日にすみませんでした」
「楽しかったピョン。ふたりはもっとゆっくりしていくピョン」
「……ふたり?」

 私ってもしかして深津の中で存在しない記憶なのかなと考えていたところで、名前を呼ばれる。当然のように「行くピョン」と言われて危うくまた「は」と言いかけたが、そうだと今日の本来の目的を思い出す。これは「良い人紹介してよ」的なあれなのだった。

「あ~? 私も、明日朝早いんだよね」
「あれ、明日有給って言ってなかった?」
「そ、そう。だから朝イチで出かける約束があって」

 ないけど。

「ふたりはもう少し話していきなよ。松本さん、すみません途中なのに」
「いいえ、今日はありがとうございました」
「こちらこそ。じゃあ、……そういうことなので」

 邪魔者はいよいよ退散。カバンを掴みお金を置いてお店を出る。入口のところに深津が待っていた。私が抜け出してきたのを確認すると、深津はまた真顔で「行くピョン」と言った。

 帰り道。最初は帰りたいなと思っていたが、やっぱり行けば楽しいものである。何よりご飯が美味しいのが良かった。喋らずにご飯を食べることに専念していても怪しまれない。あと純粋に美味しいものを食べるのはいい。幸せだ。
 ビールとワインを何杯かずつ飲んでいたはずなのに顔色ひとつ変わらない男が、足音も立てずに歩いている。深津って忍者っぽいよなと思った。世が世なら深津も引く手数多だったに違いない。人を殺すのとか躊躇なさそうだし。

「なんか失礼なこと考えてるピョン」
「考えてないよ」
「じゃあ何考えてるか言うピョン」
「えー……。ほら、松本さんいい人だったなって」

 忍者とか言ったら怒られるだろうと今日の感想を言えば、深津の足が止まった。なに。無音で止まるとか最新型の自動車みたいな動きするの怖いからやめてほしい。夜だと尚更。轢かれそうになる。

「松本はダメピョン」
「え、は。うん?」
「松本は相田さんのものだピョン」
「いや、まだだけど、そうね」

 深津は特別怒っている風でもないのに、その妙に淡々とした口調がいつもとは少し違っていた。どちらかというと仕事中みたい。取引で軽妙にセールストークをしていたと思ったらこちらの条件を全部飲ませていた時の深津一成だ。「あれマジおっかねぇよな」と言っていたのは係長で、「深津は手放さない。何より敵に回さない」と言ったのが課長。私はどちらにも「ですね」とだけ言った。

「お前は俺ピョン」
「何が」
「相手」
「だからなんの」

 もしかしてワンオンワン? さっきバスケの話盛り上がってたもんね。残念、運動はからきしダメだ。多分ドリブルも続くか怪しい。
 私が無理無理と手を顔の前で振ると、深津はやれやれと息を吐く。じゃあなんだ。何の相手が私で、深津なの。ねえ。

「気づいてないのは分かってたピョン」

 深津が指でピストルの形をつくる。指が長くて、思ったより太くない。綺麗だなと思った。その綺麗な指と短い爪先が私の方へ向けられる。そしてバンっと、子供だったら口で言い出したくなりそうな動作で持って、その銃口は月へ向く。銃声も煙もなかったが、深津がフッと指先を吹けば、本物みたいに見えた。ああ、忍者じゃなくて殺し屋志望だったのか。――じゃなくて。

「……なに、今の」
「撃たれたふりくらいしろピョン」

 ゆっくりとピストルの形が解けて、元の大きな手に戻る。するりと解かれた指が伸びて、私の腕を掴む。「え」。強く引かれて、よろけた私を彼が難なく受け止める。なに、と言う声をかき消したのは背後を走り抜けていく一台のバイク。ああ。勘違い。なるほど。

「危ないピョン」
「……ありがと、」
「……本当に撃たれたみたいに心臓が早いピョン」
「バッ、」

 後ろに飛ぶようにして離れたはずが、掴まれたままの腕は振り解けずに。目で離せと訴えたところで深津一成がそんなものに動じるはずもない。目で訴えても力勝負でも口の回転数でも負けて、これってもしかして負け戦と気づいた時には敵の手の中。あまりにも遅い。というかこの男の勝負が早い。開始3分でカタをつけようとしてる。

「深津、手」
「明日の約束キャンセルするなら離すピョン」
「約束?」
「明日、朝」

 なんで。聞いちゃえよ。
 頭の中の天使なのか悪魔なのか分からない何かが囁く。

「最初から、そんなのないけど」

 なんで、そんなこと聞くのって。

「じゃあいいピョン。行くピョン」
「……どこに」
「全然飲み足らないから付き合うピョン」

 離れて行った手が残した体温と、壊れたみたいに動き出した心臓。三歩進んで振り返った深津が、3分前の彼とはまるで違う人間みたいに見える。おかしいな。これは、おかしい。今日の主役は、店に残してきたあの2人で、私たちではなかったはずだ。そのはず。少なくとも、私はそう思っていたけど。

「……ほら。行くピョン」

 どこから、何から間違った?


 ありがとう、と言われた時、本当の本当に何の話をしているんだろうと思った。そうしたらその後にすぐ「松本さんとお付き合いすることになって」と言われて、ようやく要旨をつかんだ。なるほど、この前の“「良い人紹介してよ」的なあれ”は無事成功を収めたらしい。
 私は今の今までそんなことがあったことすら忘れていたのをおくびにも出さず、大げさに喜んで「良かったね」と言った。それは本心。そんなに興味がないだけで。

「深津さんにも、お礼言っておいてもらってもいいかな?」
「ああー……うん、分かった、分かった」

 そこで自分で直接言いなよと言ってしまうのは簡単だったけど、どうしても「深津って話しかけづらいしな〜」という思いがそれを邪魔して、安易に頼み事を引き受けてしまう。
 実際、話しかけづらいのは本当で、私がなまじ彼と話すことがあるせいで、深津への頼み事は大体いつも私に回ってくる。「そんなに怖い人じゃないよ」と試しに言ってみても「でも、ちょっと怖いし」と返された日には「まあ分かる」で納得してしまって、結局私が行く羽目になるのだ。私には怖くないから構わないけど。

「——っていうことらしいよ」
「よかったピョン」
「ね」

 深津一成は奇妙な男なのである。
 自分で天使を自称したり、指で空砲を撃ってきたりするくせに、人が集まる場所では器用に話を回したり、お洒落な店を予約したりする。知れば知るほど正体が分からない男なのだ。
 だから彼と話すのは、興味半分、怖いもの見たさ半分。終わった後で、大体あんな話題吹っかけなきゃ良かったなと思うことはままあって、冷や水のような正論に殺されかける時もある。

 そういうわけなので、奇妙な男とまた怖いもの見たさで食事に来て、また何やらいい感じの中華屋に連れてきてもらっている。店に入る前に「行きつけじゃないピョン」と釘を刺されたのは謎だったが、出てくる料理は全部美味しい。

「キューピッド成功じゃん」
「百発百中ピョン」
「そうなの?」
「ピョン もう2人に恋人を授けたピョン」
「授けたって……」

 その言い方は天使じゃなくて、神さまっぽいけど。まあいいや。
 キューピッド深津が言うに、松本さんの前には高校の後輩の片思いをお膳立てしたらしく、その彼も今は彼女と仲良くやっているらしい。意外と本当にちゃんとキューピッドをやっていて、私の方が驚いた。深津は真顔で冗談も嘘もいうタイプなので、基本信用していない。

「嘘じゃないピョン。もうすぐ分かるピョン」
「何が分かるの?」
「そのうち結婚発表したら分かるピョン」
「交際のきっかけは高校の先輩です——って?」
「ピョン」
「まさか」

 深津はいたって真剣だった。あまりにも真剣なので、これは本当なんだろうなと一瞬思ったが、同じ顔で「沖縄出身」と嘘つかれた社会人初年度の記憶を取り戻して正気に返った。危ない。安易な信用は身を滅ぼす。深津一成が身をもって教えてくれたことだ。本当はバリバリ北国出身だった。

「百発百中なら、私にも素敵な恋人を授けてくださいピョン」
「違うピョン。ピョン↗︎じゃなくてピョン→だピョン」
「やかまし」

 この男が営業成績トップとか、我が社の将来が心配である。

「ついでに恋人はもう準備してあるピョン」
「えっ」
「あとは気づくだけピョン」

 深津は、今もさっきも真面目な顔で淡々と水を飲むみたいにお酒を飲む。だから言っていることのどこからどこまでが冗談なのか本気なのか区別がつかない。普通に厄介だった。というか面倒。深津は少なくとも私よりは遥かにお酒への耐性があるので、酔っ払いの戯言という選択肢がなくなるくらいだ。

 気づくだけ。何に?
 考える。ここまでのエピソードから考えるに、それとなく2人きりになれる時間を作るのがキューピッド深津の行動パターンである。
 となると、私にもう『恋人と授けた』ということはイコール、2人きりになる時間はつくったから、あとは私がその相手と好意に気づくだけだと考えられる。

「気づくだけって言われても——」

 最近、2人きりになった異性と言えば係長と課長と深津くらいだと思う。プライベートでも異性と2人で食事には行ってない。そもそも、そんな相手がいたら深津におねだりなどしない。係長も、課長も既婚者だし、話の内容も仕事だし、場所も職場だ。2人きりと言っても会議室か執務室とかで、色恋には全く関係ない。

 となると。
 深津の言いたいことは何なのか。
 自ずと分かってしまう。

「——それだと、深津が私のこと好きってことになるけど」

 目が、合った。いつも生気のない目に光が宿る。キラリと光ったそれはなんだったのか。見つめすぎると漆黒のその中に閉じ込められてしまいそうで無理だった。目を逸らして、小さく呼吸して、もう一度ゆっくり視線を向ける。
 追い詰められた魚も、きっと同じ気持ちだ。自分が彼の手の中にいる感触がする。前にも後ろにも行けない。崖っぷちとはまさにこのことで、追い詰められているのは理解した上で、「さすがだな」と感心すらしてしまう。

「遅いピョン」
「あっ、そうなの」

 鮮やかだった。お見事だった。もう完敗だなと早々に白旗を上げる支度をする。深津一成という男にとって、警戒心のない子羊を捕らえるのは、どれだけ容易かっただろう。しかし、その容易いことに糸と罠を張り巡らすところが、まさにこの男らしいなと思う。
 あっさりと告白を認めた男は、10分前と全く同じ顔をしていた。うっすらと心に芽生えるのは、好意でも嫌悪でもなく恐怖である。マジで怖い。この男。

「この前の、“お前の相手は俺”ってそういう」
「ピョン」
「……なんでそんなに平気な顔でいられるわけ、」
「このくらいで動揺するようじゃとっくにバレてるピョン」

 この食事の席で、追い詰められているのは私だ。それは間違いない。割と話す方だと思っていた同僚から気持ちを吐露されている。おまけに相手は恋のキューピッドを自称するヘンテコリンな男で、私の相手は俺だと宣告されている。
 しかし、追い詰める側にもそれなりのプレッシャーが存在するはずだ。
 いくら私が相手とは言え、ここまで追い詰めて逃げられたでは流石の深津も『キューピッド』の称号を返上せねばなるまい。他人の赤い糸は散々結んでおいて、自分のは失敗したのかと天国の笑いものになる。

「とっくにって、いつからそんな」
「お前が」
「……?」
「『可愛い喋り方だね』って言った日ピョン」
「えっ」

 新生活に夢膨らまず。勤労に従事するという絶望に浸りながら社会人になったあの歳。同期に面白い男がいるのだと上司に紹介されて深津とは出会った。その日の夜だ。せっかくだから飲みに行こうと言って、課内の数人で連れ立って店に入った。
 そこで初めて彼とまともに会話した。初手から変な男だった。多分ちょっとだけ引いていた。だって、喋り方が普通じゃなかったし。変な喋り方を“変”だと思わせずに、あっさりと周囲に受け入れさせる彼の手腕が、奇妙で仕方なかったのだ。

 あの時、うっかり言った記憶がある。お酒の力もあったし、初対面で「変な人だね」って言うのは憚られて。そう、つい。うっかり言ってしまったのだ。
 『可愛い喋り方だね』って。なんかご当地ゆるキャラと接した時みたいな気持ちで。

「私の記憶が正しければそれは3年前ですが」
「合ってるピョン」
「……マジで言ってんの」
「今日は1回も嘘ついてないピョン」

 今日“は”ね。

「顔が白いピョン」
「いろんなことが頭の中ごった返してるから待って」
「もう随分待ったピョン」
「知らない知らない」

 そんな律儀に3年間も待っていたとか今知ったので無効である。
 そういうのは相手に『待ってますよ』って知らせてから初めてカウントし始めるべきだと思う。じゃないとフェアじゃない。だって深津にとっては3年間の集大成でも、私にとっては3分前に落ちた青天の霹靂なのだから。

「もう諦めるピョン」
「まだ早くない?」
「じゃあ何が嫌なのか言ってみるピョン」
「嫌なとこは、」

 深津一成の嫌なとこ?
 例えば普通に辛辣だとか。あれって考えてみると、好きな女に対する言葉とは到底思えないものもあったんだけど。会社来て一番に「ファンデの色が合ってないピョン」とか言われた日の私の気持ち考えたことあるのかな。
 あとは会話が謎の方向に帰着するのもちょっと嫌。冬には鍋だよねって話をしてたのに、ミュージカル映画を見る人間の気が知れないって話になっていた時は本当に謎だった。会話の途中式がまるで記憶にないから余計に。

「表情変わらなすぎて怖い」
「恋人になれば分かるようになるピョン」
「そういう特典は求めてないんだけど」
「他には」
「言葉がときどきキツイ」
「気を付けるピョン。でも言わないといけない時もあるピョン」
「まあね」
「もうないピョン」

 リスのような蛇のような、ものすごく人間らしいような2つの目が私へ真摯に向けられている。もうないか、と聞かれればまだある気もする。しかしそれを全部羅列したところで耳触りのいい言葉で言いくるめられてしまうのは明白で、やっぱり私の負けである。
 つまりは決定的な断り文句を持たずに、この店に来た時点で私の負けは決まっていた。予告なしの戦争は負けるに決まっている。あまりにアンフェア。しかし、恋愛にはルールなどないので仕方ない。

「今日からよろしくお願いしますピョン」
「あ、もう。決定事項なのね」
「嫌いって言わなかった時点で負けピョン」
「言うと思った」
 
 潔く敗北を認め、私はキューピッド深津の矢に射抜かれる覚悟を決めた。天使というかもはや狩人。狙った獲物は逃しませんって? あーあ。そりゃ勝てない。

「嫌われてないのは知ってたピョン」

 何それズルじゃんと言ったら、ほんの少し。すこーしだけ深津の表情が柔らかくなった気がして驚いた。本当に恋人になったら表情の変化が分かるようになるらしい。
 そんな馬鹿な。

お前が天使なわけがない