らしくないな、とゾロは思った。足を止めると、腰に下げていた刀がかちゃりと音を立てる。肩に担いでいたバカみたいにデカイ花束を下ろして大きくため息を吐いた。

 元はといえば、名前のせいだ。1週間ぶりに停泊したこの島で羽を伸ばそうと各々が島に散っていく中、たまには自分も名前とゆっくり買い物でも何でも付き合ってやろうと思っていた。グラウンドラインでは平和な島というのは早々あるものではないのだ。

 それなのに、名前は到着早々チョッパーとルフィの手によって島の高台に行ってしまったと言う。ゾロが昼寝をしていた間にそんなことになっていようとは。あいつらは少し気を使うということを覚えるべきである。そんなこんなで、残念だったわね、とロビンに笑われ、アンタも行けば?とナミに揶揄われ、ゾロの気分は悪かった。女どものふざけた提案を一蹴し、こうなりゃ旨い酒でも見つけようと1人船を出たのだ。

 『ちゃんと船の場所覚えたのか?』というウソップの言葉を聞き流し、街のアーケードを真っ直ぐ進む。真っ直ぐ進むだけなのに、迷うもクソもあるか。(ある)アーケードの中では店がひしめき合い、八百屋の前では腕組みをするクソコックの姿も見かけた。酒屋はどこかと花屋の店主に聞こうとしたら、開口一番『アンタ、良い人はいるのかい?』と聞かれ若干面を食らう。良い人、と言われてすぐには平和ボケしたマヌケヅラが浮かんだのを、店主は見逃さなかった。

 ちゃんと気持ちを伝えているのか、すぐに愛想を尽かされるぞ、アンタあんまり好きだ何だと言わないタイプだろう。

 ――店主はうまいこと言って、俺にどでかい花束を買わせた。途中からこれが狙いだとは気づいていたのだ。でも、店主の言葉に思い当たる節がなかった訳じゃあない。ギクリと心臓のあたりで冷や汗が流れたのも残念ながら事実なのだ。ゾロは押し付けられた花束の代わりに、酒用に持ってきた金を渡した。

 受け取った時には、たまにはいいかと思った。でも、船へ帰る道すがら、やっぱり自分らしくないと次第に花束が重みを増してくる。今まで一度だって贈り物をしたことの何自分だ。こんな大層なものを持って帰れば、笑われる気がする。というか、名前に盛大に引かれそうな気がしてきた。『熱でもあるんですか?』と大真面目な顔で聞いてくる彼女の顔がすぐに浮かんでくる。

「ちっ」

 大体、アイツが悪いのではないのか。それに、名前とのつき合いもなんだかんだ言って長い。俺が気持ちを伝えなくても、秘めているものは伝わっているはずなのだ。だから、こんなカタチは不必要なのだ。持って帰るのは恥ずかしい。でも綺麗に作られたこれを捨ててしまうのは忍びない。かと言って、他に渡す相手などいるはずもなかった。ゾロが大きくもう一度ため息を吐き出した時、自分の名前を呼ぶ声がした。サニーの前で、自分を見つけて破顔する女はあの物好きくらいのもんだ。

「ちょうど今迎えに行こうと思っていたところなんです」
(俺はどんだけ信用ねえんだよ)

 名前は自分のところまで駆け寄ると肩に担がれた花束に気づいて、目を丸くする。

「どうしたんですか、それ」

 だよなと思いつつ、もう言い逃れはできない。するつもりも、ない。ゾロは花束を下ろし、目の前の女に押し付けた。

「えっ」
「やる」

 彼女の顔をすっぽり隠してしまうほど、そいつは大きかった。ひょっこりと覗いた顔は戸惑いと喜びでほんのりと赤くなっている。

「わたしに?」
「他に誰に渡しゃいいんだよ」

 名前はニコニコと微笑みながら、花束をぎゅうと抱きしめた。ゆっくり落ちていく花弁が、ゾロを優しい気持ちにさせる。(まあいいか)たまにはこんなのも。喜んでるみてえだし。

「行くぞ」
「はいっ」

 船に帰れば、名前が花束のことをアイツらに嬉しそうに自慢して、全員にからかわれる未来が見える。俺の見聞色の覇気もそこそこ上達したもんだ。

名前e1#」
「なんですか?」
「好きだ」

 頼むから、この言葉だけはアイツらに言ってくれるな。

ピカピカに光る君を待ってる