久しぶりにレンタルビデオ屋に行ったら内装も配置も変わっているし、レジはセルフになっているし心底焦った。見たい映画のタイトルが思い出せないなあと思ったら、秋の夜長特集という謎のコーナーにちんまり置いてあるのも驚いたし、意気揚々とレジにカードを通してみたら有効期限が切れていたのも驚いた。あら期限3年前。もうそんなに来ていなかったっけと思いながら更新した。

 いいやそれよりももっと驚いたのは、借りたDVD片手に訪れた彼の部屋も内装がちょっと変わっていたことだ。昔は物は少ないけど少し散らかっていて、まさに男!って感じの部屋だったのに、こんなに黒と白でシックにまとめられたら女として立つ瀬がない。私の汚い部屋には二度と彼を呼べないことが決定したよ。床に物出しっぱなしにしてますごめんなさい。

「……」
「どうした?」
「……のどかわいた」
「ハハ、ほらよ」

差し出されたのは2年前に遊園地へ行った時に買ったお揃いのマグカップ。まだこの洒落た部屋の一部として残されていたことが嬉しい。そして当たり前のようにそれを出して、また全部分かったようにマシュマロ入のお高いココアをいれてくれる洋平ってどこの神様だろう。もはや尊い。

「ねえ洋平」
「うん?」

この映画つまらないね。そう自分で口にして自分で納得した。本当につまらない映画だった。女の子と男の子が出会って恋してライバルに邪魔されるけどやっぱり君が好き!って…n番煎じもいい加減にしろとキレたい気持ちである。これを勧めてきたバイト先の先輩とはもう深い関わりを持たないことにしよう。

「そうか?」
「うん」

今日は色んなことがあったようで何も無かった他愛もない平凡な日だったけれど、そんな今日のいちばん驚いたことは、楽しみにしていた映画がつまらなかったことに決定。せっかくカードを更新してまで借りたのが馬鹿らしい。

「あんまちゃんと見てなかったからな」

どんな映画だっけと洋平は雑誌を捲った。バイク雑誌の何がそんなに面白いか理解は出来ないけれど、少なくともこの映画の結末よりは興味がある。

「かっこいいバイクあった?」

これこれが良いんだと言われたところで何とも言えないけど。テレビの中で男の子と女の子が抱き合うのを横目に見ながら、洋平は白い歯を見せて笑った。その笑顔がとても好きだなあと思う私にパチリとウィンクをして、洋平は雑誌を閉じてしまった。

「わり、お前見てた」

だから知らねぇと洋平は雑誌を後ろのソファに投げる。黒のソファも相まって洋平がずっとずっと大人に見える。両手で冷めたココアを抱える私はひどくお子様なのに。「なあに言ってんの」そんなB級映画みたいな台詞誰が時めくものかと私はテレビの電源をぶち切った。つまらなかったと先輩に突きつけてやろうそうしよう。

「なあ名前
「うーん」
「風呂でも入るか」

 なんで一緒に入る前提なんだとか今までの流れ関係ないとか、せめて少しでいいからどれだけ今日の映画がつまらなかったか語らせてほしいとか。ああもうどうでもいいや。一緒にお風呂入ろう。

(彼女は狭い浴槽の更に狭い俺の腕の中で今日の映画に出ていた女の子は可愛いけれど演技が下手くそだという話を延々としていたのがたまらなく可愛かった)