「あ? ジャックザリッパーと一緒に列車から飛び降りただと?」
「顔怖。警官に見えないって」
「茶化すな」
「えーゲームの話じゃん」
「そのゲームに命握られてたんだよ」
「そうだけど」
命懸けのゲームも無事子供たちの勝利という形で幕を閉じ、ノアズアークがひっそりとその生涯を終えた頃。疲れ切った私たち大人は、遅めの夕飯を食べにラーメン屋に来ていた。達成感と未だ止まらないアドレナリンで、この尋常ない疲れを誤魔化してはいるが、明日には起き上がれないこと必須である。
「だって、ああするしかないでしょ」
「もっと穏便な方法があんだろ」
「そんなの私が思いつく訳ないでしょ」
それに、この映画はあのシーンなしでは完結しない。それを私がやったと思うと、恥ずかしくて消えたくなるがまあそれは一時的に忘れるとして。
何が気に入らないんだか。陣平さんは深夜とは思えない量の山盛りチャーシューメンを啜りながら、何やら御立腹である。
「怖かったけどさ。ほら、私リアルでロープ一本でビルバンジーしたことあるし。あれに比べたらどうってことないって」
「それも笑い話じゃねえんだよ」
「もう笑うしかないって〜〜」
真面目な顔でする話じゃないのも確かでしょうが。関係者以外に話しても、どんだけ盛った話だとそれこそ笑われてお終いだろうけど。まあまああれも良い思い出でしょう。そう思わないとやってられないのはこっちだから。
「そんなこと言ったら、陣平さんだってさ」
麺を啜る。顔に汁がはねる。熱い熱い。ああ、やっぱり私たちは生きてるんだなあ。
「私のこと庇って、先にリタイアしたくせに」
「……あん時はあーするしかなかったんだよ」
彼の罰の悪そうな顔も、熱そうに麺を啜る横顔も、生きているからこそ眺めていられるのだ。あのゲームの中でも私ちの感覚は生きていたけれど、本物のそれには敵わない。誰かを思って胸が苦しくなるこの感覚は、生きている私たちだけの特権だ。
「知ってる」
「……」
「多分、お互い思ってることは一緒なんじゃないかな」
自分の何よりも大切な人が、自身のためでなく誰かのために死んでしまう。自分の命を投げ打ってでも、誰かを救おうとする人だから。
それが怖くて堪らないのだ。私も、陣平さんも。
「だからさ、命は大事にしようね」
「おー」
「ラーメン、おいし」
私がそう言ったら、今度は軽い調子で「おー」とは言ってくれないだろうから、湯気の立つラーメンと一緒に飲み込んだ。ご馳走様。お腹いっぱい。 BACK