腰にぶら下げたホルスター。取り出されたのはもちろん銃で、あれこんな展開あったか?と私が頭を捻った瞬間には客室内に銃声が響いた。ジャックザリッパーの銃口が向けられていたのは、確かに私だった。しかし、視界には見慣れたスーツの背中があるだけ。
「じ、陣平さん?」
「松田刑事、」
「おい、大丈夫か!」
私を庇って代わりに弾を受けた陣平さんはもちろんゲームオーバー。体が光を放ち始めた。
「陣平さん、」
「おー。アンタは無事か?」
「無事だけど、陣平さんが」
「ならよかった」
「よくないって、」
「んな顔すんな。——また後でな」
彼に触れる前に、陣平さんの姿が消えてしまう。これはゲームだ。死んだわけじゃない。やり直せる。私たちがゲームに勝てば、何もかも元通りだ。でも。何もない場所を指す指先はひどく冷え切っているようで、彼が消えてしまったという事実だけがそこには存在している。
遠くで。あるいはすごく近くで。誰かが私の名前を呼んだかもしれない。
しかし、それを確かめる前に視界は白煙に包まれ、意識はプッツリと途絶えた。
どこかで信じていたのだと思う。私と陣平さん。先に死ぬのは私だと。
現実でも。それがたとえゲームの中でも。もとより彼は優秀な人だ。本来ならば頭と技術を使ってどこでだって生き残れる。本来、彼は多くの命を救うために犠牲になるはずで、その運命を捻じ曲げたのは私。だから何か罰が降るならばきっと私に。自分本位に運命を変えてしまったから、最後まで責任を取ろうと決めていた。何があっても、彼と彼の仲間たちは死なせない。
だから、私は彼よりも先に死ぬんだって。
目が覚めた時、全てを悟った。
体に巻かれたロープ。繋がる先は目の前で嘲るように笑う殺人鬼。
猛スピードの列車。その屋根の上に私たちはいて、先頭の方から名探偵と諸星少年が走ってくる。
「名前さん!」
ああ、そうだ。今回役立たずだった私の唯一の見せ場がここなんだ。蘭ちゃんの代わりに、彼らに勝利をもたらさなくては行けない。そうしないと、本当に陣平さんに会えなくなってしまうから。
終着駅まで残りわずか。私たち以外は消された乗客と運転手。確実に追い詰められている。
でもまだ。まだ、チャンスはある。
「ベイカー街の亡霊」はお気に入りの映画で、特にこのシーンは何度も見た。あそこの蘭ちゃんが本当に格好良くてさ。私じゃなかったら、きっと名探偵も惚れ直しただろうな。
「名探偵、」
「名前、さん……?」
「”君を確実に破滅させることができれば、公共の利益のために、僕は喜んで死を受け入れよう”、——だっけ?」
「へ、」
崖を走る列車から思い切って身を投げる。
大丈夫だよ、名探偵。ゴールはすぐそこだ。