割ともう限界かもしれない。マジで。
30にもなって一晩中走り続けられるほど体力があるはずもなく、劇場から駅まで全力疾走した時点で私の心肺機能はほぼ終了したと言っても過言ではない。「早く早く」と名探偵に煽られ、陣平さんにすごい力で腕を掴まれ散々である。半ば引き摺り込まれる勢いで放り込まれたのは、この映画の最後の舞台、暴走機関車だ。
「大丈夫か? ひでー顔してっけど」
「だいじょ、ぶなわけ、ない」
なーんで毎回こんな苦しい思いして走ってんだ、私。ゲームの中ならちょっとくらいは補正してくれてもいいはずなのに。まあ、そんなわがままが罷り通るなら、私はきっとコナンの世界にすっ飛ばされて生まれ変わることはなかっただろうし、そこで爆弾娘になることもなかっただろう。
「おぶるか?」
「やめてよ。子供が見てる」
「名前さん、苦しいなら——」
「名探偵、口元が完全に笑ってるから」
揃いも揃って緊張感がない。私にだけは言われたくないと思うけど。
「冗談はこのくらいにして、そろそろ行こうか」
「行くって、どこに」
「決まってんだろ? この連続殺人事件の終着駅さ」
いよいよ映画もクライマックス。一番大きな車両に集められた乗客たちと、車掌。そして私たちプレーヤー。堂々と真ん中に立った名探偵から一歩離れ、私と陣平さんは壁側に並んでいる。私の視界には、もちろんジャックザリッパー扮する紫ドレスの女性の姿もあった。知っているからこそ、彼女の纏うナイフのような鋭さを感じるが、知らなければただの美人で終わってただろうな。あ、あんま見ないようにしないと。
「ではこれからミスターホームズの資料に書かれていたことを説明します」
堂々と推理を語り始めるちびホームズことコナンくん。ホームズの資料を説明すると言うのは半分嘘で、資料に書かれていたことを基にあの七色の脳細胞が導いた推理をお披露目するのである。私の隣の恋人さんも、何だか分かっているようだけど。
「——ジャックザリッパーは、お前だ……!」
「なっ、」
「名探偵、あの人は女性に見えるけど?」
今回またしも蘭ちゃんの仕事を奪ってしまったので、一応驚いたふりはしておく。じゃないとパンピーがジャックザリッパーの正体気づいてたらおかしいし。
「右手の薬指が、」
そう。女性モノの指輪を長年嵌めた結果、異常に細い右手の薬指。それが彼女、いや彼がジャックザリッパーであるという証拠である。
「キャアアアアア」
「えっ、わ、」
「名前、下がってろ」
正体を見破られたジャックザリッパーが紫のドレスを脱ぎ捨てる。慌てふためく乗客。客室内はパニックだ。下がってろと言われても、こんな状態じゃ右にも左にも行けやしない。
「あれは、……名前さん危ない!」
「ん?」
「……ッチ」