※映画の面影だけある
※蘭ちゃんの仕事はぜんぶ奪う
※ガンガン松田さんが絡みます
※今回はいつも以上に無茶苦茶です
※お付き合いしてます
「なんでこんなことになってんだよ」
「陣平さんだってやってみたそうな顔してたでしょ」
「参加者は子供だけって話じゃなかったのか?」
「そんなの鈴木財閥のお嬢様に言ってください」
そう、莫大な財産の前には何もかもが無力なのである。たとえ参加者が子供だけと限定されているゲームの体験だって、園子ちゃんにかかればお茶の子さいさいで大人2人を紛れ込ますことができる。こんなことになるなら、話を聞いたとき「面白そうね」なんて言わなきゃよかった。今更思ったところで後の祭りだけど。
「あー! 名前お姉さんだ!」「彼氏の兄ちゃんもいるぞ」
「松田刑事も! 参加してたんですね」
「見つかった……」
「ははは みんなこんにちは」
私たちの周りにワラワラと集まってくるのは、例の如く少年探偵団のみんなだ。
最初に聞いた話では参加バッチは持っていなかったらしいけど、確か上手いこと手に入れたんだよね。この子たちの強かさを見るに、将来は安泰だ。
「松田刑事に、名前さんまで。なんでここに」
「園子ちゃんから話聞いてね、面白そうって言ったらほら」
「毛利さんとこの娘の分と合わせて二人分。ごてーねーに」
私たちの胸元に光る参加バッチを見て、名探偵が苦笑いする。気持ちは分かる。またかって顔。それはこっちのセリフだが、今回ばかりは私が飛んで火に入る夏の虫なので黙っておくことにした。にしてもまさか、私があのコクーンをプレイすることになろうとは。本当、何してんだか。
そう、私たちはコクーンと呼ばれる新しいゲームの中にいる。今実際には催眠状態。つまりここは仮想現実の世界だ。そこで繰り広げられるアドベンチャーをそれぞれプレイヤーが選択し、遊び尽くすという売り文句だが、私は知っている。これがただのゲームでないことを。
「『ベイカー街の亡霊』かあ」
また難易度高いとこに来たもんだ。映画自体は大好きだったけど。
「なんか言ったか?」
「い、や。ほら、確かベイカー街舞台にしたステージあったなって」
「らしいな。あの工藤優作が監修したとか」
「ね。すごい。楽しみ」
嘘です。怖いです。これ確かゲームクリアできないと脳破壊されるって話だった気がする。わかってるなら来るなって話なんだけど、好奇心が優った。あと普通に園子ちゃん相手に断り切れるほど方便が上手くない。
”これは単純なテレビゲームじゃない 君たちの命が懸かったゲームなんだ”
——いよいよ。私たちの命懸けのゲームが始まるらしい。 :::
「また厄介なことになったな」
「陣平さん、なんか楽しんでない?」
「まさか。でもやるしかねーだろ」
ワクワク抑え切れない少年のような恋人の横顔を見ながら、私は静かにため息を吐く。そんなんだから誘われちゃうのよ。やっぱりこのゲームやりたかったのね。ばか。
「で、どのステージにすんだよ」
「えっ」
「あ? 別々のとこ行くつもりだったのかよ」
「いや、陣平さんのとこ着いていくつもりだったけど」
「なんだよ」
「あれ一択かなって」
私が指差した先には、『オールド・タイム・ロンドン』と書かれたゲート。名探偵たちも、今回キーマンとなるあの金持ち坊ちゃんたちもそこにいる。
正直どこに行っても戦力外なのは確定なのでどこでもいい。強いて言うなら映画の内容を覚えてるってアドバンテージがあるのであそこがいい。ただ、陣平さんはあれ一択だと思ってたから、私に聞いてきたのはちょっと意外だった。
「ま、そうなるか」
「ほら、陣平さん頭もいいし」
「”も”ってなんだ」
「顔も最高にいいでしょ」
「アンタなぁ」
「ほら行こ」
置いてかれちゃうよと言えば、陣平さんはガシガシ頭をかいて着いてきた。みんなにも「よろしくね」と手を振る。名探偵は陣平さんが来たことでちょっと嬉しそうだ。分かりやすい。戦力になる大人がいて、よかったね。
「さあ、行こう」