※映画の面影だけある
※蘭ちゃんの仕事はほぼ奪う
※ガンガン松田さんが絡みます
※今回はルパンsideとも絡みます
※お付き合いしてます
誰が悪いのかと言われれば、多分私が悪い。分かっている。分かっていても先輩の誘いは断りづらいし、魅力的な報酬には頷きたくなるし、好奇心は相も変わらず旺盛なのだ。仕方ない。そう言い聞かせ、私は他の誰にも聞こえないようにとため息を零した。
私は今、“サクラサクホテル”のキッチン内である。
「おい、名字。なにボーッとしてんだ? 疲れたか?」
「ま、まあ。それなりに……」
「やっぱりこの規模のレセプションパーティーともなると中は大慌てだな」
「……ですね」
このあと、このホテル全体が更なる混乱に陥ることをこの人は知らない。というか知っているのは私と犯人だけである。もうイヤ。
サクラサクホテルといえば、親日家で知られるヴェスパニア王国のサクラ女王が多額の出資をしつくられたホテルである。そのサクラ女王は先日の一件で残念ながらジル王子と共に亡くなられてしまった訳だが。何を隠そう、これも『名探偵コナン』の事件の一つである。しかも、確か『ルパン三世』とのクロスオーバー作品。私、あれ大好きだったな。悲しい話なんだけど。
「いや、このホテルのシェフもみんなお前のこと気に入ってたぞ。センスがいいってさ」
「うわあ、ありがたい」
「どうだ? 店畳んでここに就職するか?」
「嬉しい誘いですけど、それはちょっと。激務ですし」
「まあな」
さて、今日はサクラサクホテルのレセプションパーティー。映画の序盤で展開する事件が起きるはずだ。確か、王国関係者の毒殺未遂だったか? 犯人が飲み物を出しかけたところで名探偵が割り込んでくるのは覚えてるけど、流石に犯人の顔までは覚えていない。
「大丈夫かな、名探偵」
何事もなく、犯人を止めてくれたらいいけど。
私にできることは目の前にある仕事をこなすだけ。どうせパーティーは中止で用意したご飯も食べてもらえないだろうが、だからと言ってどうすることも出来ないし。先輩との束の間の休憩も残りわずか。先に戻るという先輩を断って、私はお手洗いへ向かった。
出来たばかりでピカピカの従業員トイレを出てロッカーへ戻ろうとした、ちょうどその時だった。今日の日のために統一で仕立てられたソムリエ用のスーツのまま、裏口から戻ってきた男性。確か、あの扉の向こうは喫煙所だったはず。飲食関係者には喫煙者が多いが、ここまで格の高いホテルともなれば話は別だ。繊細の舌の感覚が狂うからと、むしろそれを忌避する人の方が多いくらいなのに。
「怪しい……」
残念ながら、今日事件が起こることが分かっている私には何もかもが怪しく見えてしまう。裏口から出てくると、辺りをキョロキョロして落ち着かない様子。何度もネクタイを締めたり、緩めたり。挙動不審だ。
思い出されるのは、あの映画で名探偵が語った推理。確か、煙草の匂いが犯人特定の決め手じゃなかったっけ? うろ覚えだけど、そう思えばそう思うほど怪しく思えてくる。念の為。これは念の為だ。別に外れたって、私は今日1日しかここにはいない人間。遺恨が残っても構わない。
近くにいた警備スタッフに声を掛ける。
「あのソムリエの格好をした男性がさっき怪しい行動をしていたみたいなんですけど、よく見ておいてもらえませんか?」
:::「――名探偵!」
「名前さん! どうしてここに?」
「今日のパーティ、私もキッチンにいたんだよ。先輩に呼んでもらってね」
「そうだったんだ」
「またお手柄だったみたいだね」
「そ、そんなこと……」
事件後。やっぱりお開きになってしまったパーティ会場を抜け出してロビーへと向かえば、小五郎さんと一緒に警察を待つ名探偵がいかにも小学1年生らしからぬ凛々しい姿で立っていた。やっぱり犯人は私が目をつけたあの男だったらしい。名探偵に止められて逃げたところを小五郎さんに捕らえられたそうだ。
残念。「名探偵コナン」のフィールドで事件を起こしたのが運の尽きだ。
「それにしても、飛んで火に入る夏の虫というか何と言うか。事件の真ん中にはいつも名探偵がいるね」
「名前さんと会う確率も大概だけどね」
「あのね、小学1年生がタイガイなんて言わないの!普通は!」
「えっ、あっ。僕、ほら小説とか読むの好きだし」
「全く、本当変わってるよね」
ちょうど話し終えると、パトカーのサイレンが近づいてくる。目暮警部たちのご登場だ。モブはここで引き下がらなくては。私は名探偵にバイバイし、小五郎さんに挨拶をして一応調理場に戻った。取り調べがあるそうなので、残らなくてはいけないのだ。王女様も無事だったみたいで良かったけどさ。
「あ、いたいた。名字、お前に重要なお仕事だ」
「重要なお仕事?」