日本中で大きな話題になった東都水族館の事件から3ヶ月。人の噂も七十五日とはよく言ったもので、あの銃撃戦はなんだったのか、なぜ観覧車は崩れたのかと騒ぎ立てるメディアも静かになった。気になる気持ちはわかるが、首を突っ込まないことをオススメする。死んでも知らん。

 そして今日、私の恋人は、ようやく落ち着いた休日を迎えていた。あの事件のおかげで警察内部は大混乱だったそうだ。想像に容易い。遊園地が爆破されるのがこの世界の常だとしても、未知の兵器で襲われたとなれば厄介さが違うのだろう。幸いにも死者は出なかったものの、負傷者多数。おまけに一般人が余計なこと言わないようにと箝口令を敷くのも大変だったとか。そのあたりは、私も知らないところなので詳しくないけれど。

「悪かったな、しばらく会えなくて」
「いいえ。これでも警察官の彼女だからね」

 それなりに理解はあるつもりだ。自分も巻き込まれた当事者として事件が速やかに落ち着くことを切に願っていたし、何より陣平さんが生きているならそれだけでいい。本当に、それだけで。

 やっともぎ取ったお休み。二人駅前で待ち合わせをして、知らない名前の駅で降りた。駅から少し歩いた先にあるカフェに入って、私はカフェオレを、彼はアメリカンを楽しんでいる。こんな落ち着いた休日も、彼ら、警察の働きなしにはありえない。

「陣平さんが無事でいてくれるならなんでもいいんだよ」

 本当はもっと会いたいと思わないこともないけれど。もしもこの先、彼を救う代わりに二度と会えないと言われても、私は迷わず彼が生きることを願うはずだ。今となっては、それが私の人生だから。

「アンタはそればっかりだな」

 彼の安心したような、でも少しだけ寂しそうな顔に、胸がキュッと詰まる思いがした。と言っても、私が言えるわがままなんてたかが知れている。もっと会いたいは職業柄叶えられないし。無事でいてほしいは彼の問題だし。そうだなあ、なんだろう。……あ。

「じゃあ一つわがままっていうか提案があるんだけど」
「なんだ」
「そろそろ一緒に住みませんか」

 ピタリ。陣平さんの動きが止まる。そんな驚くことだった?

「いいのかよ」
「いいも何も私が言ったことだし。気が進まなければ、家は他に借りてもいいよ。できれば店の近くがいいけど」

 さっき頼んだ、ソフトクリームが運ばれてきた。相も変わらず、陣平さんの中の私はソフトクリームが大好きな女みたいだ。もはや大好きになってしまったんだけど。だって、私はソフトクリーム食べてると、彼が満足そうに笑うから。

「いや、あの家がいい」
「そう?」
「あの家で、今度こそ待っててくれ」

 ……恋人が、イケメンで困るな。

 私は照れ隠しに笑って、分かったよと頷く。分かった、今度はちゃんと家で出迎える。おかえりなさいって、美味しい味噌汁作って待ってる。今度こそ、だ。

「今日のこの後の予定は?」
「うーん、これ食べたら陣平さんの食器でも見にいく?」

 本当は、彼の綺麗で格好いい顔をずっとずっと、日が沈むまで見ていようと思ったけれど。それはこれからいつでもできるようになるみたいだし。どうせ、今日も同じ家に帰って同じベッドで眠るのだろうし。まあいいでしょう。

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