観覧車内部はまるで迷路のように入り組んでいる。小さな体のコナンを押し上げ、松田は辺りを見ながら走っていた。その時、不意にコナンが足を止める。メガネに手をかけ、視線は上。観覧車上部だ。

「あれは――?」
「おい坊主、貸せ」

 望遠鏡のような不思議なメガネを借りれば、そこには観覧車の軸にまとわりついた無数の黒いコード。この事件の全容も見えていない松田ではあったが、それが何であるかははっきりとわかる。彼らの商売敵、――爆弾だ。

「ちっ、本当に俺の出番だったってわけかよ」
「行こう!松田刑事」

 二人階段を駆け上がれば、コードが集約される怪しげな消火栓。松田はサングラスを外し、それをTシャツへかける。状況から見るにやはり爆弾がここに隠されていると見て、まず間違いないはずだ。松田は横の穴のカバーを巧みに外し、そこから中を覗き込む。やっぱり。闇に浮かぶ不吉なタイマーが、はっきりと見えた。

「ビンゴだ、坊主。ここから先はプロに任せな」
「うん! 僕、上にいる応援を呼んでくる」
「応援? 誰かいんのか」
「とっても心強い味方がね」

 そう言ってコナンは、先に到着しているはずの赤井を呼びに階段をさらに上へ。松田は解体のために、開け口に設置されたトラップを解除に移る。まさかこんなことになるとは。松田の頭には、残念そうな、否。それ以上に心配そうな恋人の顔がチラリと浮かんだ。

 松田が開け口のトラップを解除した直後、コナンと共に降りてきたのは赤井と降谷。自分がボロボロの姿であることなどまるで無視して、解体作業にはいった松田を見て驚いている。

「松田!? お前、なんでここに、」
「サービス残業だ」

 コナンが爆弾の存在について説明する。コードが車軸に伸びていること、事件には例の組織が絡んでいること。この世界で爆弾を仕掛けられていない遊園地などないに等しい。

「とにかく降谷さんと赤井さんたちでなんとか時間を稼がないと、」
「作戦会議なら、俺も混ぜてくれるか?」
「ヒロ……!」

 こうして遊園地にイケメンが4人と未来のイケメンが一堂に会することになる。諸伏はもちろん、名前に呼ばれてきた応援である。しっかりとライフルを背負っている。赤井は久しぶりの再会となった諸伏に「ほお」と興味深そうな笑みを浮かべる。もちろん、機嫌が悪いのは降谷だけである。

「お前、なんでここに」
名前ちゃんに外で会ってさ、助けてって泣いてたぞ」
「あ?」
「冗談だよ。とにかく応援呼んでこいって言われたって」

 コナンは、確かに彼女に外にいる警察を呼んでほしいと言った。しかし、安室透・赤井との関係性は現状不明。この二人が知っている人間である以上、信頼できる人には違いないが。彼女の行動もやや不自然だ。どうして諸伏が警察だと分かったのか? 以前に会ったことがあるのか?

「坊や、役者は揃ったようだ。作戦会議の続きと行こうか」

 赤井がコナンに続きを促す。コナンは有り余る疑問を一旦保留とし、ここからの動きについて説明を始めた。

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 ハローこちら名前。現在、諸伏さんを連れて観覧車内部を駆け上がってるなう。外の警察に知らせてとは言われたものの、誰を呼ぼうか迷っていたところ、一番最初に出会えたのが諸伏さんだった。こんな規模の大きな事件ならば公安の方がいいだろう。知っている限りの情報を彼に伝えればすぐに仲間に指示を出していた。何度でも言う。顔がいい。

 話が逸れてしまったけど、とにかく役目は果たした。安全なところに避難してと言われているし、私も邪魔にならないうちに避難を先に済ませてしまった方が――ん? 待てよ。狙われているのは観覧車。確証はないが、十中八九あれは爆弾の類。それに焦ったコナンくんの表情から察するに、もしかしてもしかすると黒の組織絡みの可能性が高い。あの忌々しい銀髪野郎の顔が浮かぶ。おかげでジントニックは嫌いになりました。そんなことはどうでもいい。

 観覧車といえば、少年探偵団はどうした? ここに観覧車に乗りにきて、おまけに園子ちゃんに乗せてくれと頼んでいたあの子達は、今。

 私は咄嗟にスマホを取り出し、歩美ちゃんの番号を鳴らした。まだ並んでいるという可能性もあるが、私と陣平さんがいた時に彼らの姿を見なかったと言うことはもう乗っている可能性が高い。

『もしもし? 名前お姉さん、どうしたの?』
「あ、歩美ちゃん? 今ってどこにいる?」
『今はちょうど観覧車で上がってるところだよー!』

 やっぱりだ。あと何分で何が起こるかなんて知らないが、今そこにいることがどれだけ危ないことかはなんとなくわかる。コナン世界の常識その1・規模がマジででかい。観覧車大破も夢じゃない。

「……そ、そっか。邪魔してごめんね」
『うん、大丈夫だよ。バイバイ』
「はい、またね」

 歩美ちゃんとの通話を切り、即座に名探偵にかけるもまるでつながらない。それはそうだ。今はあっちのことで精一杯だろう。あそこで爆弾に追われている人とコンタクトを取る手段はないに等しい。となると、どうする? 迷っている時間はない。あの無垢な命を守るためには、私が行って助けるか、そうでなくとも直接知らせる必要がある。ここで行かなくては爆弾娘の名折れ。いいや、今すぐにでもその不名誉な称号は辞退したいが、とにかく無駄なことばかり考えている余裕はないのである。

「今度こそ死ぬかもしれん」

 どうか、私に幸あれ。