東都水族館に到着すると、丁度蘭ちゃんたちも到着した頃で、無事に子供たちを引き渡すことができた。ミッション完了。園子ちゃんたちにも「あらあら」と揶揄われたアラサー2人は大変恥ずかしい思いである。
「おお、すごーい」
「ばっかみたいに広いな」
何の情緒も感動もない台詞を吐く恋人の腕を引き、私たちも中へ入る。真ん中に聳える大きな観覧車と、その奥にある水族館。さてどこから行こう。私が迷っているのに気が付いたのか、陣平さんはふっと笑って、私の頭に手を置いた。
「焦んな、全部行きゃいいだろ」
「うん、じゃあ水ぞk「まずはあれだろ」
「――なんで?」
松田陣平ははっきり言って異常だ。彼は私といる時に限って観覧車に乗りたがる習性がある。それなのに自分は特段好きなわけじゃないと言うし。何度でも言うが、私はどちらかと言うと好きではない。どうしたって、陣平さんと観覧車が重なるとこの人がいなくなってしまうような、嫌な予感がして堪らないのだ。
「また観覧車……」
「あの坊主たちも勧めてただろうが」
「怖いんですよ」
やれやれ。ため息を吐きながら二人で列に並ぶ。ここの観覧車は二輪回っていると聞いたが、今日は片側は点検中だそうだ。やけに人の多い中話していれば、何かが足にぶつかった。「すいません」と聞き慣れた声が、足元からする。それは妙に焦っていて、いや、この声――
「名前さん!? それに松田刑事も」
「な、何してるの? こんなところに一人で」
みんなならさっき観覧車に、と言いかけたところで名探偵は慌てて腕時計を確認する。急いでいることはわかった。いつになく焦った顔をしている。もしかしなくてもこれは事件である。やっぱりこの世界のアミューズメントパークには来るもんじゃない。
「ごめん、ボク急いでるんだ」
「おい、何があった」
「とにかく早く行かないと」
あーあーあー。嫌だなあ、嫌だ。観覧車、水族館。おまけにここには蘭ちゃんと少年探偵団もいる。何か起きる条件は揃い切っているのだ。
「――名前、悪いが」
「いいですよ」
神に誓ってもいい。爆弾の出番だ。私は、悲しきかな、確信があった。むしろ今まで爆破されないことがありましたか? なかったですよね。そうなると、絶対に爆弾処理班のエースを連れて行くべきである。
申し訳なさそうな顔をチラリと浮かべた陣平さんの背中を押す。そんな顔してる暇あったら早く平和を守りに行ってきてくれ。ここに今、何千人って人がいると思ってるんだ。どう考えてもデートより重要なんだから。
「怪我人ゼロ、死者ゼロ。今回の埋め合わせはそれでいいよ」
本当は怖いけど。この人は警察官だ。市民の安全を守るのが仕事なんだから。私が手放したくないという理由で引き止める訳にはいかない。キュッと手を握る。見えないようにしたつもりだったけれど、陣平さんはそれに気づいて、私の頭を撫でた。
「終わったらアンタの家に帰る。顔が見たい」
「うんわかった」
無事に、どうかどうか終わりますように。私は膝をついて、名探偵と視線を合わせた。もう一刻の猶予もない。早く動かないと、誰かが死んでしまうかもしれないのだ。
「名探偵、この人も連れて行ったほうがいい。きっと役に立つから」
「うん、ありがとう名前さん、松田さん」
「私にできることある?」
「外にいる警察の人に知らせて。少しでいい、応援を」
「わかった」
人波をかき分けて立ち入り禁止のロープをくぐり、二人が観覧車の内部へと走っていく。私もそれを見送って、急いで走り出した。これ本当に何の事件だ? 誰に知らせるのがいいのだろう。警察官なら誰でもいいというわけでもないだろうし。いいや、困った。
待て、すごいあっさり適任者発見! ラッキーすぎて怖い。