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解放された腕をさすりながら、生きている実感を噛みしめる。い、生きてる。ありがとう名探偵。君には何度命を救われたことだろう。ああ、爆弾から解放された瞬間が、一番生を実感するなんて、なんとも皮肉な話だ。にしても生きてて良かった。
「なぁに死にそうな顔してんだよ」
「生きるって素晴らしいなって顔なんだけど」
「何言ってんだか」
彼が、私の空っぽになった腕を掴んでなぞる。こんなこと言って、彼も安心したのが丸わかりだというのは、ややこしい話になってしまうから言わないでおこう。また、心配かけてごめんね。
「陣平さん」
「? ん」
「離れないでくれてありがとうね」
「どういう意味だよ」
「そのまんま」
ありがとうも好きも、ちゃんと思っているからね。
「ゲッ」
「やったー! ほらみんな行くぞ」
「名前さんも行きましょう」
「はよはよ~」
余計なことしてくれるな。
「飲み物は?」
「今、何か飲んだら空中で吐く」
今日一度、私たちは朝一で並んでこれに乗った。なのにどうして二回も乗ろうとしているのか。陣平さんに仕事はいいのかと聞いても、今日は非番と言うばかりで、全く聞いてくれない。非番の日に爆弾調べたり、ひったくりぶっ飛ばしたりしてたのはどこのどいつだ!!
「さっきも平気だったろうが」
「あんな酷い顔してるの見て、何が平気と?」
「俺が横にいんだろ」
「その言葉にはもう騙されない」
うわーー恋人の前に、今にも死にそうなヨボヨボの顔を日に2度も晒すなんて、百年の恋が覚めたらどうするんだ。いやだ、シンプルに嫌だ。こんな恐ろしい乗り物……
「名前」
「そんなかっこいい顔で名前呼ばないで」
名探偵にまた揶揄われてしまう。あの子、蘭ちゃんにおぶわれているくせに、チラチラこっち見てるんだから。絶対次お店来たとき何か言われる。恥ずかしい。恥ずかしい。
「行くぞ」
「ぐ」
もうどうにでもなれ。ええいままよと、彼の手を掴んで乗り込む。こんな安全バーには一ミリだって信用置けないけれど、まあ握って離さないと言ったこの分厚い掌は、そこそこに信用してあげてもいい。
「もう乗らないからね!」
ビイビイ言い過ぎて、すっかり怪盗キッド見逃した。
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