陣平さんは、ずぶ濡れの私を見て、声に出して笑った。
「無事かよ、爆弾娘」
「意地悪」
首に腕を回す。支えるように、抱きしめてくれたその腕が、私に生きていることを教えてくれる。馬鹿野郎って言いながら、頭に触れるその手は優しくて、こんな時でも素直じゃない。──「やっと会えた」会いたかったんだ、ずっと。生きるか死ぬか、そんな時でもずっと貴方に。
「アンタ、あの坊主たちになんか言ったか?」
「へ?」
わしゃわしゃと、私の髪を拭きながら、陣平さんが問う。どういう意味かと問えば、先ほどプールで子供たちに囲まれていた彼の姿を思い出した。珍しいこともあるもんだと思いながら、軽い聴取を受けていたので、何を話していたかは聞こえなかったのだ。「なんて言われたの?」陣平さんは、毛布を私の身体に巻いて、透けてんだよと悪態をつく。もうみんな忘れていると思うけど、今日は元々勤務だったから、白いTシャツを着ていた。責めるな、濡れたのも不可抗力。
「名前お姉さんのこと、絶対離しちゃダメだとよ」
「…………?」
「俺のこと大好きなんだって?」
(ぶっ)ちょいちょい、そんな話、私がいつ──したわ。恥ずかしいというより、あんな小さな子たちにそんなことを言った自分が恨めしい。そして素直すぎるあの子たちもちょっとだけ。大人には直接言うには恥ずかしいけど、他人になら簡単に言えることが、たくさんある。そんなことはまだ分かるまい。いや、分からなくていい。
「それなら、あんまり無茶ばっかすんじゃねぇよ」
「はぁい」
「心臓止まるかと思ったぜ」
顔を上げる。触れ合いそうなほど近い距離は、確信犯だろうか。私は笑みを零し、彼の唇を受け止める。私が冷たいのか、彼が温いのか。確かめるようなキスは、すぐに離れて。私は掴んでいた毛布の端を、ギュッと握る。
「一緒に帰ろう」
「ああ」
生きるのって難しい。でも誰だって譲れない信条と、底知れない勇気を持っている。誰かが背中を支えてくれるなら、強くなれる。私にとってそれが彼で、彼にとってそれが私なら、私は高層ビルからだって飛んでみせる。体の節々はまだ痛いけど。歳をとると、治りが遅いのだ。
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