時が経つのは早いもので、パーティ当日。
陣平さんからは「頑張れよ」と有り難いお言葉を胸に抱き、せっせと働いている。正直頑張るどころではないのだけど、いつ事件が起きるのかと気もそぞろに手を動かす。そんな細かいこと覚えてる訳もなく、パーティはどんどん進んでゆく。料理の追加注文が山のようにやってきて、それなのに、事件の存在が頭から離れない。私のささやかな頭が爆発しそうである。
パーティも中盤に差し掛かった頃。料理もひと段落ついたと思ったら、慌てて様子で先輩が厨房に駆け込んでくる。う~ん、嫌な予感。
「おいっ!パーティ会場で、常盤社長が殺されたらしい!」
(……やっぱり)もちろん、厨房にも動揺が広がる。私は深いため息をつく、今後のあれこれを想像して絶望した。
「警察が来てるから、俺たちもパーティ会場へ」
いよいよ、悪夢のような一夜の幕開けだ。
・・
・
「名前さん?」
「あ、蘭ちゃん」
「そっか、名前さん、今日いらしてたんですね」
「うん、まあ」
「でも、残念ですね、折角のお料理もあんな事件の後じゃ——」
パーティ会場で簡単な聴取を受けるも、ずっと厨房にいた私たちは、怪しい動きができないばかりでなく、捜査に有益な情報は何1つ持ち合わせていないということで、早々に待機を命じられた。できれば今すぐここから出て行きたいけど、そういう訳にもいかないし。蘭ちゃんと再会できたのがせめてもの救いか。いや、不幸か。なんにせよ、見知った顔に安心したのは本当だ。犯人の側にはできるだけ近寄らないようにしよう、うん。
ドッカーン
ほら来た。
警備室から即刻避難するように指示が出て、女子供・お年寄りは展望エレベーターでの避難するように目暮警部が言い渡す。窓の下を覗けば、救急車と消防車がわんさか来ているけど、これって陣平さんたち処理班も来るのだろうか。
「大丈夫、次ので行くから」
「それでは、残った女性陣、如月さんは次の回で行ってください」
如月さんが年寄り扱いするなと喝を入れ、どうか早く名探偵に捕まれと私は願い、男性陣が森谷帝二の弟子の引率で避難してゆく。私の心臓が嫌な音を立てている。成り行きで蘭ちゃんたちと一緒に最後の便まで残ってしまったが、これって結構まずいのでは?なんで、もっと早くにエレベーター乗らなかったんだ、私。馬鹿野郎。
チーン
「さあ、乗ってください」
うわあ、私も階段で避難すれば良かった。
「でも、このエレベーターだけ別電源で良かったよね。そうじゃなきゃ、階段で降りるなんて大変だよ」
園子ちゃんの声にハッとした、名探偵がメガネいじって遠くのビル見てる。ほらやっぱり、乗らなきゃ良かった。
「園子姉ちゃん!パンツ丸見え!!」
名探偵の叫びと同時に、私も園子ちゃんの腕を引く。「ええっ!?」名探偵、その言い方はもっと他の言葉があったんじゃないかとオバサンは思う。でも、今はそれどころじゃない。エレベーター止まったね。あの、銀髪野郎。勘違いで散々迷惑かけやがって。あのスコープから見れば顔で判別つくだろう。女を髪型でしか認識していないとは、どこまでも不届きな野郎である。さっさと、赤井さんたちに捕まってほしい。
「なんで、止まるの?」
「機械に穴が開いちゃったからね」
「なんで?」
ドッカーン バリバリ
エレベーターのすぐ真横で窓が割れる。もうエレベーター内はパニックだ。私含め、モブが泣いてる。沢口さんが必死でボタンを押しても動かないし、もう本当にジンが憎いよ。
「蘭姉ちゃん、肩車して」
そうだ、早く逃げよう。