※映画の面影だけある
※蘭ちゃんの仕事はほぼ奪う
※ガンガン松田さんが絡みます
※お付き合いしてます
オーマイガー。私は、てっぺんも見えないような高いビルを前に、頭を抱えた。西多摩市ツインタワービル。聳え立つ2つのビル。日本の建築技術を結集したような見事な建造物が、数日後に爆破されると知っていたらどうだろう。TOKIWAってそこそこ有名企業だし、ぴんとくることもなかったし、何より今回の仕事は専門時代の先輩に誘われた案件で、例え何か分かっていたとしても、断ることはできなかったわけなんだけど。
「よお、名字!久しぶりだな」
「先輩……」
「どうした?ゲンナリして」
今回、私は先輩の誘いを受け、ビルのオープンパーティーの仕出しの手伝いをすることになっている。先輩は東都・銀座の一等地レストランで働く一流シェフで、確か去年独立したとか。常盤の社長とどういう繋がりでこの仕事を受けたかは知らないが、私にヘルプが飛んできた。ちょっと遠いけど、お給料は最高で、喜んで引き受けた。ビルの名前に若干の引っ掛かりを覚えつつ、今日、下見にやってきたが、これはいかに。
「パーティー会場は上なんだ。ついでに見ていけよ」
厨房を覗かせてもらい、ガラス張りの高速エレベーターに乗って地上75階へ。こんなおぞましい建物を作るから、イカれた芸術家の逆鱗に触れるのだ。スタッフに連れて行かれた先輩を見送り、待つこと数分。あそこにいる、真っ赤なスーツの美人に、有名市会議員、着物の老人に、背の高いおじさま。ああ、殺される人がたくさんだ。
「毛利先輩!」
びっくりして振り返ると、エレベーターから出てきたのは、毛利探偵御一行。今日が映画の冒頭だったか。間が悪いのか、最高なのか。
「名前さん?」
わあ、見つかった。
「やあ、名探偵」
「何してるの、こんなところで」
「いやあ、ちょっと仕事で」
常盤社長は、私を見ると、先輩の名前を出し、あなたが今回の料理を担当してくださる方ね、と握手を求められる。そこまで把握してるとは、有能な人だなあ。殺されるのが惜しい。
「名字 名前です、よろしくお願い致します」
「こちらこそ、期待しているわ」
料理を考えるのは、先輩で、私は作るだけだけど。まあ、いいか。
「実は、僕、毛利さんとは縁があるんですよ。——実は私、森谷帝二の弟子なんです」
風間さんが口を開く。刹那、毛利さんと名探偵の顔が曇った。森谷帝二とは、あの米花シティビルが左右対称でないって理由だけで粉々にした、イカれた建築家だ。私のトラウマワードを簡単に出してくるのはやめてほしい。コナンの世界の芸術家は大抵頭がおかしいから、あんまり関わりたくないのだ。
「じゃあ、名前さんとも縁があるね」
「?」
「このお姉さんも、あのビルの爆破事件に巻き込まれちゃったんだよ」
「それは、災難でしたね」
「……ええ、本当に」
元はと言えば、君が連れてきたような事件だが。元はと言えば、私がやるべきことではなかったのだが。もう、過去については何も言うまい。
「よかったね、このおじさんは爆破しないってさ」
「ソウダネ~」
違う人が、爆破するけどね。
窓からの眺望を楽しみながら、私はため息をつく。この景色が見られるのも、あと残りわずか。精々目に焼き付けておくことにしよう。ああ、富士山が綺麗に見える。それが問題なんだけど。「名前さん、実は折り入ってご相談したいことがあるのですが」
ゆっくりと歩いてきた光彦君が、顔を赤くさせながら言う。この歳で、折り入って~なんて言葉普通使えないからね?
「明日会って頂けませんか?」
「いいけど、私でいいの?蘭ちゃんじゃなくて、私?」
「はい、お願いします」
「じゃあ、うん。もちろん大丈夫だよ」
「時間と場所は後ほど」
円谷光彦、あれは恋する男の顔である。あれ、映画ではこの役回りは蘭ちゃんのはずだったんだけどなあ。おっかしいぞぉ?
「名前お姉さん、二人だけで話したいことがあるの」
——うそやん。
歩美ちゃんのお誘いも承諾し、日取りは後ほどということに。なんで私なのだろうか、と頭をひねっている間に、名探偵がポルシェの話を聞いて勢いよく飛び出してゆく。何度も言うけど、小学生1年生っていう設定は守れないならやめたほうがいい。そして、黒いポルシェ356Aに乗っている人が全員、ジンだと思うのは間違ってる。まあ、それはジンだけど。