車の中にいた私は全くの軽傷だった。車は横転したが、エアバッグとシートベルトに助けられた。日本の技術ってすごい。シートベルトの大切さを身をもって世間に知らしめる結果になったね、これは。念のために検査を、と私はコナンくんが搬送されたのと同じ病院に連れてこられた。すぐに救急車を呼んでくれた人がいたので、名探偵も大事には至らなかったそうだ。安心。私が関わったせいで、大怪我に~とかなったら目覚めが悪い。

 コンコン
「……名前さん、大丈夫ですか?」

病室に入ってきたのは、蘭ちゃんと園子ちゃん。すごく慌ててる。無事だよ。

「お父さんから連絡もらって、ケガは」
「私は全然平気なの、それよりコナンくんが」

ケガをさせてしまったと言えば、さっき会ってきましたと微笑まれる。お叱りと心配の会話は既に済んでいるそうだ。

「……もう! こんな時に新一くんと名前さんの彼氏は何してる訳!?」
「園子ちゃん落ち着いて」
「だって名前さんがこんなに危ない目に遭ってるのに!!」

まあ、たしかに。こういう時、一番に連絡の行くはずの家族は東都にはいない。心配かけるのも悪いと思い、連絡は自分ですることにした。あと他に思いついたのは、もちろん陣平さん一択なんだけど、生憎のタイミングだ。このあと、私の記憶だと東都環状線に爆弾が仕掛けられて東都が大混乱に陥る。こんな時こそ、松田さんの出番だ。出動命令が出ている頃合いだろう。頑張れ。

「それより、蘭ちゃんと園子ちゃんはお出かけの途中だったんじゃないの?」
「ええ、……新一の誕生日プレゼントを買いに」
「真っ赤なポロシャツをね」
「ごめんね、邪魔して」
「いいんです。アイツ、何回電話しても繋がらないし、きっと今日の約束なんて忘れてるんですよ」

さっき貴方が叱りつけたのがその新一です。歩く死神。もういいんです!と笑った蘭ちゃんはかなり可哀想だったけれど、これから事件に巻き込まれることを思えば、これで良かったのかもしれないと心密かに思った。



「いや、新一兄ちゃんが見つけたんだよ。もっとも、爆弾の隠し場所はまだ見つかってないけどね」
「そうか、あれ、新一くんが解決したの」
「……名前さん!」

調子はどうだい名探偵。病室を訪ねると、頭に包帯を巻いたコナンくんがバッジで少年探偵団と話している。無事に東都環状線から降りることができたらしい。よかったよかった。

「もう平気だよ」
「怪我しちゃったね、ごめん」

大人として、子どもにけがを負わせるなど言語道断。それが例え見せかけの子どもであったとしても、だ。ぽんと頭を撫でると、僕が悪いんだからいいのだ、とこれまたませたことを言う。それは否定しない。君のそばにいると本当にろくなことないよ。

名前さん、怪我は?」
「私は平気。大人だからね」

迷惑かけてごめんなさい、とコナンくんが謝る。もうたくさんの大人に叱られたであろう17歳に、私はいいよと言った。私の愛車・キューブちゃんが軽くひっくり返ったけど、保険はバッチリ。GWの貯えが修理代に消えた程度の損害だ。ノープロブレム。死人が出なくてよかった。

「それより、新一くん、今日は蘭ちゃんとデートのはずだったんだけど?」
「えっ!?!?」

慌てる名探偵。阿笠博士はワシはトイレに……とそそくさと退出。揃いも揃って下手くそかお前ら。

「それは、」
「彼女より事件の方が大切かな?」
「まだ彼女じゃねーし」
「ん?」
「──って言うと思うなあ。アハハハ」

だから下手くそかて。

「そ、そう言えば! 名前さんの彼氏さん、爆弾処理班なんだよね?」
「うん。今頃、線路の上で爆弾探してるんじゃないかな」

君が見つけたやつをね。

「……ぼ、僕じゃないってば」

声が震えてるぞ、名探偵。君がその下手くそな演技を続ける限り、私は付き合ってやるけれど。だって、ジンやウォッカに命を狙われるのは御免だ。私が笑いながら頭を撫でれば面白くなさそうに、彼は口を尖らせる。日が傾いてきた。早く、彼の仕事が終わるといいな。