!attention!
※「天国へのカウンドダウン」沿い?
※映画の面影だけある
※蘭ちゃんの仕事はほぼ奪う
※ガンガン松田さんが絡みます
※お付き合いしてます

「ええ、名前さん、どこへも行かないの?」

園子ちゃんがびっくり仰天といった様子で目を丸くする。季節はGW。町のお店はみんな閉まって、どこかしらへ行くらしい。隣のおばちゃんは旦那さんと伊豆旅行、斜向かいの家族は韓国へ。お土産買ってきますね、と言われるのもなかなか辛いものなのだ。一方、私はと言うと、園子ちゃんが冒頭で言った通り、どこへも行かず営業中というわけだ。

「なんで?彼氏いるじゃない! デートしないの?」
「いやあ、無理だろうなあ」

そりゃ会えるもんなら私だって是非に会いたいけれど。仕事柄、休みの少ない彼であるからGWなんて関係なし。むしろ、みんなが外出して事件の増えるこの時期は繁盛期だ。流石に爆弾事件こそ起きていないものの、こういう時期は部署関係なく駆り出されるというし、陣平さんも萩原さんもお忙しいことだろうよ。そろそろ疲れが溜まっているころだろうし、今晩あたり電話してみようかな。声だけでも聞ければ、まあ。

「お忙しいんですよね?失礼なこと言っちゃダメよ園子」
「だってぇ」
「いいのよ、蘭ちゃん。寂しいのも本当だしね」
「そうよね!」

園子ちゃんの彼氏は400戦無敗の蹴撃の貴公子である。私の前世の推し。残念ながらエンカウントする前に武者修行に行ってしまったらしい。京極さんはあんまり事件に巻き込まれないし、是非是非会いたい。園子ちゃんに彼氏が帰ってきたら絶対に連れてきてねとミーハー気取りで言ってある。実際にミーハーだけども。

「そういう二人はどうなの?」
「私は家族で熱海の別荘に行くけど。蘭は、ねえ」

別荘というワードに驚くこともなくなった。これが彼女の普通なのだ。

「なになに?」
「ちょっとやめてよ」
「新一くんとデートよね♡」

新一くんとデート? ついこの間、名探偵は少年探偵団諸君と一緒に新作のお子様プレートの試作会に来てくれたばっかりだけど?新一戻れるの、あのこ。

「新一くん、最近見てないけど、元気なの?」
「電話ではちょこちょこやり取りしてるんですけど、事件ばっかりみたいで。でも元気そうです」

蘭ちゃんが寂しそうに笑った。その電話は変声機使ったコナンやでとは死んでも言えなさそうな雰囲気。まあ元気は元気だね。この間も、ハートのオムライスを顔引きつらせながら食べてたし。もちろん写真撮りました。近日公開。

「デート、新一くんはなんて?」
「あんまり乗り気ではなさそうでしたけど、」
「絶対来るわよ!もし来なかったら鈴木家の財力をフル動員して捕まえて来てやる」

怖い。この世で最も恐ろしいものは黒の組織ではなく、金である。お金が全て。つまり、最強は園子ちゃんなのだ。最近は、鈴木家の財力にものを言わせて、アポトキシンの解毒薬でも何でも開発してもらえば一件落着な気がしてきた。

「それは、楽しみだね」

どんな策を使ってくるのかは知らないけど、大天使・蘭ちゃんを悲しませるようなら、私は黙ってないぞ、名探偵。

 pipipi
「もしもし、陣平さん?」
『どうした?』
「用がないのに、電話しました」

いつもいつも、用がなくちゃ電話しちゃいけねーのかよって、貴方に言われるので。掛けてこいよ、と言うけれど自分より遥かに忙しい人に電話するのって結構気がひけるのだ。彼に言っても無意味な気はするけど。

『大歓迎。ちょうどよかった』

今片付いたとこだった、と彼がフーッと息を吐いた。またおタバコですか。ニコチン中毒。舌も鈍るし、私はもうずっと辞めたらどうですかって言ってる。辞めないけど。アイデンティティーみたいなものだし。

「GW忙しいよね」
『……忘れてた』
「そうだと思った」

彼は少し沈黙して、悪いなと言った。どっか行きたかったか、って。そんなこと思わないわけもないけど、あんまり期待していない。そんなことも承知の上で彼とは一緒にいるのだから、謝るのはなしだ。確認しただけだ。そう確認。

「いいの。分かってたし」
『また今度な』
「うん、そんなことより、お仕事頑張って」
『へいへい』

会ったら、生姜焼き食いたいなと言われ、いいねと返す。明日にでも作ってしまいそうだ。

「ちゃんと待ってるから」
「ん」

陣平さんの心地いい声が、静かに私を眠りに誘う。もっとお話ししていたいのに、いつもこう。彼との時間はあっという間。惜しい。

『戸締りしっかりして寝ろよ』
「はぁい。陣平さんも食事はしっかり」
『わかってる』

おやすみ。おやすみなさい。