やって来ました!杯戸ショッピングモール~~!!──じゃない。今日は11月7日。運命のXデーである。とりあえず連絡はつかないから諦めた。連絡が着いたところで、どうにか出来ることでもないだろう。という訳で、兎に角ここへ来ることにしたまでは良かった。爆弾の場所は把握済み。あとはそれを上手いこと伝えて、両方の爆破を回避すればいい。私が上手くやればどうにかなることなのだ。

 11:27

観覧車が爆破されるのは確かお昼。そう思って、朝からここへ来た。とりあえず下見を、とあさイチでひとり観覧車してみたけど虚しいだけで情報はない。そんな前もって観覧車に爆弾を設置する訳ないか。見つかったらすべて水の泡だもん。それからここで怪しい人間が設置に来ないかと監視していたは良かったが、正直誰も彼も怪しく見える。ショッピングモールということで大きな袋を持った人はたくさんいるし、どれも決め手にかける。こいつ爆弾持ってますよ~と通報できるような人はいなかった。せめて、何番の観覧車に爆弾があるのか分かればもっと良かったけど、そんな細かい数字覚えてる訳もない。貧弱な頭ですまんな。

「どうしよ」

早くしなきゃ松田さんたち来ちゃう。

 ドカーン!!
わっ、と思った時には時すでに遅し。制御室無事爆発。まだ30分以上あるはずじゃないの?早くね。てか破片飛んできた、痛い! 絶対怪我した! もう!

消化器を持ったスタッフが駆けてくるのと反対に、私は観覧車への階段を上る。ウォンウォン、パトカーの音がするということは私は間に合わなかったらしい。ガッデム。せっかちな犯人。地獄へ落ちろ。

どうしよう、どうしよう。慌ててる間に時間は過ぎる。人が来た。観覧車が止まらないって騒いでる。

「72番のゴンドラは?」

佐藤さんの声。72番が爆弾、ってことは、あのちょうど下りてきたやつだ。
 ──もうこれしかない

「こういうことはプロに任せな」

はい、生で頂きました。いよっ!と思っている場合ではない。観覧車は止まらないのだ。ぐんぐん上へと登っていく。初めて乗ったけどまあまあ高さのある観覧車だ。観覧車って一人で乗るとなんと虚しいことかと思っていたけど、もはやそんなことも言ってられぬ。

 ガタン
「止まった」

ああ、いよいよでございますか。これで水銀レバーが発動するんですね分かります。松田さんは、ええっと——あ、電話してるわ。佐藤さんにだな。これカッコイイシーンだよなあ。何言ってるかは流石に分からないけど。

 ドンッ
おいおい、そんなに強く叩いたら水銀レバー発動するぞ

 pipipi
「もしもし?」
「アンタそこで何やってんだ!」
説明しよう。私はいま、71番のゴンドラにいる。

「何って、観覧車に乗ってますね」
「馬鹿野郎!」

今、ものすごい剣幕で罵られている。それもそうだ。一般客は全員避難が言い渡されていた。まあ、混乱に乗じて71番にもぐりこんだのであるが、いや、だってさ。電話越しに、松田さんは何やら私に罵詈雑言を浴びせているが、ここにいるものはもうどう仕様もないのだから素直に諦めて欲しい。私を降ろそうと観覧車を動かせば水銀レバーがいかれてアウト。流石に真横にぶら下がっているゴンドラが木っ端微塵になれば私だってタダじゃ済まない。多分だけど死ぬ。だって私には主人公補正ないし。むしろモブofモブ。道連れである。

「松田さんにフラれたので一人で遊ぼうと思って」
「フラれたって、」
「連絡ないし、どうしてるかなあって」

すごい偶然ですね、と。今日の私はそういう設定なのである。ちょこんと観覧車の中で一人。携帯を持つ手はかすかに震えているが、見えやしないだろう。

「爆弾、──そこにあるんですよね」
「……」
「松田さんなら、どうにか出来ますよね」

私を見下ろす彼の瞳が、悲しく歪む。松田さんのゴンドラが爆発したら私のゴンドラも吹っ飛ぶ。それを彼も分かっていることだろう。葛藤しているのだ、国民の命と私の命を天秤にかけて。

 11:58

間に合え。頼む、間に合ってくれ。

「貴方が死ぬなら私も死にますよ」

お願いだから。見えない方の手を固く握る。左腕につけた時計がカチカチと静かに音を立てた。私はここにいる。あと数分後。彼もそこにいてほしい。
ピッと彼の携帯にキャッチが入る。——来た

「約束、今度デートです」

携帯をぶち切る。最後まで松田さんは静かに葛藤していた。どうか、どうか間に合ってくれ。松田さんがしゃがみこむ。

 11:59

窓の外を見た。遠くまで、よく見える。これが最後の景色になるのは嫌だな。足元がふわふわする。もう一度、大地に足を。目を閉じた。真っ暗、世界の果てによく似てる。

 12:00