※相変わらず無茶苦茶する
※お付き合いしてません
「ほら」
眼前のソフトクリーム。差し出す本人にそれが似合ってなさすぎて、もう少し持っていてもらいたいのが本音である。
「……ありがとうございます」
止むを得ず受け取る。松田さんはコーヒーを片手に、私の隣に座った。10月も終わりを迎える頃合い。こんな寒い日にソフトクリームを食べているのは私だけだ。最初のデートのとき、買ってもらったそれが嬉しくて大喜びしたらソフトクリーム大好きマンに認定されたらしく、彼はこうしてことある毎に買ってくれるのだ。暑い日も、寒い日も。おかげでソフトクリーム大好きマンになった。
「次は」
「新しいお鍋が欲しいんですよね」
「了解」
なぜ、こんなことになっているのか。説明するのは容易い。彼は私のこと好きらしい。あれだよ、胃袋を掴んだってやつ。
それを告げられたのは、結構前。でも返事はまだ良いからと華麗に去って行かれて、私は心の立て直しに一週間ばかし要した。そして今言われたことは夢だったのかと思った頃に再びお店に現れ、私は静かに現実を受け入れたのである。それから、特に何かを迫る訳でなく、彼はよくお店に来てくれた。デートに誘われることもあった。今日もデート。ショッピングモールは広くて、平日だからお客さんも少ない。買い物日和だ。
「これとこれ、どっちが良いと思います?」
「知らねーよ」
ですよね。一応聞いてみただけだ。松田さんが料理できるなんて思ってない。この人は器用なくせに面倒くさがり。料理にはあんまり向いてない。それに飯が食えないなら食えないで良いとすぐにご飯を抜いてしまう。体が資本の警察官がそんなのは良くないと、時間が合うときにはお弁当を渡している。使い捨ての容器に入れた方が楽なのに、彼は返しに来るから良いと大きな黒いお弁当箱を愛用している。私が彼のために選んだやつ、意外と素直で可愛いところあるよね。なんて、そんな調子で順調にほだされてる。
「女の買い物に付き合うのってつまらなくないですか」
長いし、自分には関係ないことばかり。私が男なら絶対一緒に行きたくない。
「アンタだからな」
「……」
「こっちの色の方が、アンタっぽくて良いんじゃねーか」
「もう~~~~!」
揺らいでない、揺れてないぞ。私は彼と付き合うつもりはないのだ。
「今日はありがとうございました」
「ああ」
車出してやるからと言われて、今日はしゃいで買いすぎた。私もそろそろ車を買おうかと検討中。やっぱり便利だし、色々出かけられるしなあ。ローンを組めば私にも買えるだろう。結婚もしてないのに車とペット飼うのはどうなの?ってユメに言われてためらっていたけど、よくよく考えると、それとこれとは別問題だ。やっぱり買おう。
「お仕事はどうですか」
「まあまあだな」
日本で滅多に爆弾事件なんて起きるわけではないが、この世界は例外だ。めちゃめちゃ仕事あるだろうなあ。というか、毎年劇場版で爆破してたし。松田さんと萩原さん生きてたら毎年出番あるじゃんか。…嫌でも、私が助けたからどうなるんだろう。色々ずれて平和に過ごせたら一番良いのだけど。生きていくのに、スリルはそんなに必要ない。
「ああ、捜査一課に異動になった」
「なんでですか!?」
「なんで、って色々あんだよ」
天から死亡フラグが降ってきた。どうして?どうして、先の爆弾事件で親友死ななかったのに事件解決しようと躍起になるの?これが原作の修正力ってやつなのね。無理すぎる。だってあれ観覧車ドカーンするやつだぞ。
「ケリつけなきゃいけねーからな」