!attention!
※萩原くん救済
※ふたりの出会い編
※お付き合いしてません

07 「人を好きになるのは恥ずかしいことではないのです」
ペンギン・ハイウェイより

こんにちは、人生2回目。イージーモード・名前です。
と本気で思っていた。数時間前まで。

まず、私のはなし。前世ではピチピチの女子大生で、大学楽しいなあってぼんやりしてたらツルッと足を滑らせて線路に落ちた。そしてやってきた電車にこんにちは。実際はそんな笑い話ではなかったと思うが、流石に自分の肉片を見る勇気はなかった。片付けさせた駅員さんに、トラウマを与えた車掌さん、目撃してしまった並びに遅延であれこれに遅れた一般人の皆様、最後にせっかく産んでもらったのに生を全うできなかったばかりか、多額の損害賠償を負わせた家族に土下座して謝りたい。しかし、言いたい。故意ではなかったと。

死んだ後は察しの通り、フラフラっと天に召されて、普通なら天国なり地獄なり行くんだけども、私は天国の手前で神様の一人に捕まった。そして、その白ひげの老人(GOD)が言うに、私の遠縁にあたる人らしく、私が死んだことに大層ご立腹だった。散々罵られ、最後に背中からでっかい団扇を取り出すと、やり直して来い!とそれで一仰ぎ。まさかとは思うけど、急転落下で地獄行き?と思った。神は私に自殺でないと弁明する時間を与えなかったのである。

気が付いてみたら、普通に2回目の人生が始まってた。本当にただのやり直しだったんだとホクホクした。2回目の親も優しく、ときに厳しく。友達もいたし、勉強もお茶の子さいさい。運動は2回目でも壊滅的だったけど、なんとか耐えた。これは楽しいやつだと思った、ある日。祖父母が亡くなって、私の両親がお店を継ぐことになったので引っ越した。米花町に。OMG。本当にそんな名前の街ってあるんだなと驚いた。驚くだけなら良かった。
 ここ、名探偵コナンの世界だった。
私は愕然とした。だって、隣町は杯戸町。私の家の裏、毛利探偵事務所だし。ちょっと散歩してみたら、工藤宅と阿笠宅発見したし。豪邸だった。ついでにタイミングよく顔を出した工藤有希子めっさ可愛かった。何この格差、泣きたい。泣いた。どうでもいい。私はしばらく絶望したのだ。だって、あの名探偵コナン。ある意味、ワンピースやドラゴンボールよりも死亡フラグ乱立である。あの人たちは一般人をガンガン巻き込む。死神は突然やってくるのだ、怖すぎる。

逃げるが勝ち。もちろん逃げた。全力で。料理の専門学校を卒業した後は隣県の料理屋で修行して、そっちで一人暮らし。死神は遠出が多いから、灯台下暗し、いけるんじゃね、と。

【父の退職に伴い田舎に隠居します。お店よろしく~】

そんなふざけたメッセージが届いたのは、つい数週間前のことである。送り主は母。父が早期退職したことを機に、夢だった田舎暮らしを始めるらしい。でも折角祖父母の代からあるお店だからぜひ継いでくれ、と。リフォーム費用は父の退職金から捻出されるそうだ。魅力的だった。立地以外。散々悩んだ挙句、私は自分の夢を選んだ。自分のお店、持ちたい。

そして、話は冒頭に戻る。

油断していた。その一言に尽きるだろう。その日、私は米花町復帰と自分の店を持つお祝いをしようと、唯一無二の友達と言っていい親友のユメに誘われ、彼女のお家に行った。最近越したのだと楽しそうに語る彼女の住所は、吉岡三丁目にあるタワーマンション。吉岡?聞いたことない。大丈夫か。と簡単に油断した。行ってみるとすごい良いマンションでブルジョワジーは違うなあなんて思って、お菓子とピザをつまみつつ、楽しい時間を過ごしていたのだ。

[住民の皆さん、このマンションから避難命令が出ています。直ちに避難してください、繰り返します――]

「え?」
「何?」

避難?なんでまた。地震かな。コナンの世界で避難とか怖すぎる。あいつら勧告なしで爆破してくる畜生集団だもん。避難命令って(笑)。

「これは現実?」
「何、名前。どうかしたの?」

点と点。薄ぼんやりとしていたそれらがぴったりと線でつながれた。私の頭の中で。

「油断してた」
「だから何を?」

早く行こうよ、とユメが袖を引く。そう、私たちは今、避難中。小学生みたいだねーなんて呑気なことを話していたら、すれ違ったのだ。いかつい防護服を纏った警察官たちと。そして、その先頭で歩いていたのは間違いなく、萩原研二だった。見間違えるはずがない。あんなイケメンの顔を私が間違えるはずはない。好きだったから。主に、前世で。