色々あった末に隠していたことと隠したかったことを全て打ち明けてしまって以来、三井くんからの連絡はなかった。あの日は笑って、私の告白も含めて何事もなかったような顔で帰って行ったのに。悪いのは私なのでそれについてどうこう言う権利などないけど、それでも確かに寂しいと思う自分がいた。

このまま何事もなかったように、三井くんとの数ヶ月が思い出になるのだとうと心寂しく覚悟した日。いつものように電車を降りて、いつものように改札を出る。今日は買い物の日じゃないからそのまま家へ向かおうとした。

名字!」

その時、聞き慣れた声が私を呼び止める。
帰宅時間の駅前は人が多くて、いろんな人が声の方へ顔を向けていた。視線を集める張本人は気にしていないのか、大きく手を振っていて、それが何だか子供みたいだった。

「三井くん? なんで」
「待ってた」
「え?」
「これ、やる」

近づくなり三井くんが渡してきたのは白い封筒。何だろうと開けようとすると、三井くんの大きな手がそれを止める。「家帰ったら見ろよ」って、じゃあなんでここで渡したの。家知ってるんだからポストに入れておいてくれたらよかったのに。

「直接、渡したかったんだよ」
「……やっぱり今見ちゃダメ?」
「だめだろ」
「えー……」

何だろう。楽しみだな。
三井くんが、普通に話してくれることが嬉しい。また顔が見られて嬉しい。三井くんの機嫌が良さそうで嬉しい。十分だ。中身が何でも、彼からもらったものなら多分何でも嬉しい。

「わり、俺今日寄るとこあるから。気をつけて帰れよ」
「ん。分かった」
「んじゃな」

駆け足で改札をくぐりホームの方へと戻る三井くんを見送って、急ぎ足で家へと帰る。ソワソワしていた。クリスマス前日の子供みたいな気持ちでそれを開ける。5秒後。手に取ったそれは、今までもらったどんなプレゼントよりも素敵な招待状だった。


[ 背番号14 三井寿 ]

「三井―! お前を待ってたぜ!」
「決めてくれよ!」
「みっちゃーん!! おかえりー!!」

彼の名前がコールされるや否や会場全体がワアと大きく盛り上がる。方々からファンらしき声が上がって、そのほとんどが男の人なことに笑ってしまう。三井くんは男からモテるイケメンらしい。なんか分かる。

あの日。彼に直接手渡された封筒は、彼の所属するチームの試合のチケットだった。コートがよく見えるいい席。チケット裏には大きく豪快な文字で「復帰戦」と書かれていた。

三井くんの怪我がどれだけ深刻で、それがバスケットをする上でどれだけ障害になるものか。私にはよく分からない。分からないけど、でも、彼は辛くて苦しいことを乗り越えて、今あの場所に立っているのだ。

結局、怪我の愚痴の一つも吐かず、最後まで笑っていた三井くんが、今まで見たどんな顔より気持ちの良さそうな顔でコートを走り回っている。

「かっこいいよ、三井くん」

ねえ、やっぱり。一番素敵だよ。

私の小さな声は、彼が放つシュートとそれに沸く観客の声にかき消される。彼があの場所に戻ることができて、本当によかったと思った。本当に、本当に。三井くんがバスケットを続けてくれてよかった。

[ 78-56 WIN! ]

三井くんのチームの勝利を見届けて、いつもの数倍浮かれた気持ちで電車に乗る。家への帰り道、これで本当にお終いなのだと考えて、少しだけ悲しくなったけど、でも良かったと思う気持ちの方が強かった。

練習ができなかった期間、三井くんの気持ちが少しでも上を向いたのなら、私と巡り会った意味があったかもしれない。三井くんがあの場所に帰れたのなら、もう会うこともないだろう。元々、彼がバスケットをしている間は時間的に会うこともなかったのだ。

一つの季節を彩った夢。そう思えば幸せだったなと納得できる。
奮発して買ったちょっと良いワインを開けて、三井くんの復帰にひとり祝杯をあげる。

「好き、だったんだなあ」