会いたかったよ、から始まりまたも泣きそうに流川の肩をばしばし叩いているのは店長。それを引き気味に見守っているのがすずちゃん。わたしは残念ながら、流川からは一番遠い位置でそれを見ている。

「店に戻る気はないのかい?」
「……またシーズンが落ち着いたら」
「いやあ、いつまでも待ってるよ」

もちろん試合を見に行くし、と。この場で楽しそうなのは店長だけ。流川がうすと返事してるけど、あれあんまり聞いてない時の顔。わたしは一人で開店準備中。

「それにしても名前ちゃんと流川くんがねぇ、いいねぇ若いって」

若さ関係ないじゃん。わたしは開店準備中。言い聞かせて手を動かす。もう、店を開けるまで30分切ってるのだ。

「流川さんグッジョブです」
「ん」

開店まで残り10分。もうそろそろ行かなくては、と流川が言うと最後に店長がアメリカはどうするんだと訊ねた。わたしも気になっていた問題ではある。

「卒業したら、行くつもりっす」
「アメリカンドリームか、格好良いなあ」
「……先輩」
「ん?」

今、結構忙しい。顔だけ流川の方に向けると、英語話せるか聞かれたので、話せないと答えた。8年学んで英語を話せないとは、日本教育の闇だ。

「……なんで?」
「あと3年で、お願いします」
「なにを?」
「英語」

……助けて、ド○えもん!ホン○クコンニャクが必要だ。

「一緒に、来てください」
わたしは、今度どこか遠くに行く時は、帰る日を教えてね、と言ったけど、一緒に行こうと誘えとは、ただの一言も言ってない。つまり、わたしはあと3年で、きみとアメリカに行くと。人生設計全部崩れた。わたしの生涯目標知ってる?〈人生安定〉流川に出会ってから、何もかも上手くいかない。

「……3年で、英語話せるようになると思います?」
「努力次第だね」
「日常会話程度なら問題ないと思います」

それでも、流川と出会う前、どんな風に世界を感じていたか思い出せない。だから、きみと共にいる努力をしたい。それを世界は愛と呼ぶんだろう、知ってるよ。

「恋は十年、愛は二秒」〆
完結

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※小題はお題サイト「跳躍」&「容赦」様