誰かを好きになること。考えもしなかっただけで、誰にだって起こる当たり前のこと。先輩を好きになり、先輩が俺をすきになり、手を繋いで、その恋の温度を知る。抱きしめて恋の形を知り、唇を合わせれば恋の苦味を知る。何もかも、はじめての感情すべて、鮮やかに俺の世界を色づける。

バスケットだけの生き方。なにかに挑戦することは、生きることそのものだった。体育館に響くボールの跳ねる音、味方の声援、ボールを叩きつけたネット、ゴールが苦しそうに揺れる。地面を割りそうな歓声と、醒めない熱。何もかも、俺を生かす大切な要素。
味方に頭を叩かれ、監督がいいぞと笑い、アリーナを見れば嬉しそうな笑顔が一番に目に映る。嬉しそうに手を振る彼女に、ガッツポーズを返せば、また楽しそうに笑う。俺にはない、色んな表情をもってるひとだった。


「おい、流川、お前今日彼女来てたろ」
「……なんで知ってるんスカ」

シャワー後。徐々に引いてゆく熱を惜しみながら、冷たい水で一気に体を冷やした。先輩はニタニタ笑いながら肩を組み、あれだけ見てたら気づくからな?普通。とよく分からんことを言う。じゃあ、どうしろ、と。

「他のお客さんにもあのくらい愛想良かったらなあ」
「なんで」
「ビッグになるのにファンサも大事だかんな」

もっと笑えばイケメンなのに!いつか言われた台詞。先輩の前でならいくらだって笑うけど。

「まあ、流川には無理か」

同じように笑ったいつかの彼女を思い出し、携帯を開けば、会う?とメールが来ていたので、会う。と返して閉じた。

「……すいません、俺行きます」
「俺へのファンサは」
「先輩俺のファンなんすか」
「だっておめーうめーもん」
「じゃあビッグになってからで」

彼女の元へ、向かう足取りは軽い。先輩は俺を見つけたら、ここだよと大きく手を振る。本当は手を伸ばさなくても見えるけど、可愛いから言わない。すごかったね、と顔を輝かせながら語ってくれるだろう彼女に、好きだと関係の無い返しをして、俺はきっと怒られる。それでも、やっぱり、彼女が好きだ。