波乱万丈の夏休みもとうに過ぎ去り、秋学期が始まりを告げた。友達と夏休みのあれやこれについて語りながら、食べる機会も残り僅かな学食を楽しんでいたら、急に目の前の空いていたイスが下がった。え、エスパー?
「先輩、寿司」
……な訳なかった。まだ根に持ってやがるこの大男。
「美味しかったよ」
「食べたい」
「……回るやつで勘弁して」
今の時代、回転寿司もカウンター寿司に負けぬ美味しさである。この前の寿司が美味しすぎて、ス○ローでも同じ台詞が言えるかどうかはこの際考えないことにする。
いい? 流川に聞けば、バクバクカレーを食べながら、うんと頷いた。真面目に大学来てて安心したぞ、わたしは。
「まあ、先輩と一緒ならどこでも」
「ぶはっ」
……危うく、野菜生活をぶちまけるところだった。なんかアメリカに行ってパワーアップした?それともわたしが一ヶ月で初期化した?なんなの、怖い。
「ちょ、名前、なに」
「ごめん、ギリ吹いてない」
「違うよ、そっちじゃない」
彼よ、彼。隣にいた友達のことを数秒で失念していた。肘でつつかれ、誰なの?と目で聞かれた。必死に頭の中で語彙を検索するも、ヒット件数わずか1件。役に立たない検索エンジンだ。今の時代、Google先生を搭載しなくては。
「……え、と、……かれし?」
「……正気?」
「正気」
このイケメンが名前の彼氏??──いや失礼だし声大きいし恥ずかしい。とにかく勘弁してください。流川もびっくりしてるでしょうが。
「ども」
「名前の彼氏くん?」
コクリ。流川はカレーを食べ終え頷いた。わたしは頭を抱えながら、もういいよと言うも、食堂の誰も聞いてない。聞け。
「いつから?」
「つい先日」
「そう、羨ましい」
「先輩、あとで電話します」
「羨ましい」
勘弁