アメリカ。ユーエスってなんのこっちゃと思っていた、8月初め。アメリカのことはU.SとU.S.Aとも言うらしい。紛らわしいことこの上ない。俺は一つ賢くなった。周りの奴らの話す英語はこれっぽっちも理解できぬまま、もうすぐ夏が終わる。まだ、アメリカは暑い。
「そういや、お前ちゃんと日本に連絡してるか?」
先輩が、あちーあちーと言いながら、俺の隣に座る。日本に、連絡。
「してねーっす」
持ってきたはいいものの、バイトもなくなると携帯電話を使う機会がまるでない。連絡って言ったって、何も連絡することなんかなかった。だからしなかった。先輩ががっくり頭抱えているけど、これは、俺が間違ってんのか。
「Hey, Kaede! Do you have a girl friend?」
「?」
急に話しかけてきた隣の黒人。先輩にヘルプと目で訴える。あっちの先輩も、バイト中、よく今の先輩みたいな顔をして助けてくれた。頭に付くのはしょうがないわね、って呆れたような諦めたような。そんなところも、好きだった。
「彼女いんのかってよ」
彼女は、『彼女』じゃない。今は彼女いない。でも、日本に帰ったら、彼女になる。逃す気なんてまるでない。でもそれを英語で言う英語力が、何言ってるの理解もできない俺にあるわけもない。
「Yes」
「えっ、お前彼女いたの?なおさら連絡しろよ」
彼女ならば、大丈夫だろうと。これは驕りや慢心、その類。でも自信がある。彼女は俺を待っている。たまに、俺のこと考えてくれたらそれでいいやって。そんなこと、どう伝えりゃいいって言うんだ。