カランカランと音がする。いらっしゃいませ、と顔を上げると、いつかの可愛い女の子がお友だち数人を連れていた。人数を確認して、席に通す。以前はどうも、なんて軽く会釈したりして。今日もそのこは可愛い。
「あ、あの人また来たんですか」
「ここのワッフルの美味しさに気付いたらしいよ」
「趣味がいいこと」
「ね」
2時間遅れのシフトですずちゃんが顔を出す。可愛いの暴力がわたしの周囲で行われている。凡人なんてひとたまりもない。あんな可愛い子に惚れられて靡かない流川が、どうしたってわたしを好きになったのか。
『先輩には勘違いされたくねーから』
うん、分かってる。分かってるけど、きみは何も言ってくれなかったじゃないか。
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早上がり。裏に下がってしまおうと廊下に出ると、あのこが壁にかけられたバスケットの写真を見ていた。言わずもがな、店長のコレクションであるが、あんまり熱心に見ているので、やっぱりこのこもバスケットが好きなんだなと再確認。顔を上げた女の子と目が合い、また頭を下げ合った。
「すごいですね、これ」
「店長がバスケット大好きで、」
なるほど。女の子、名前をあかぎはるこちゃんと言うらしい。流川とは高校時代の同級生で、彼女は湘北バスケット部のマネージャーをやっていたというのだから、これはもうあの男が好きにならなかった方が不思議である。
「だから流川くん、ここでバイトしてたんだ」
「店長があれなんで、融通効いたんです」
「流川くんがバイトなんて、大丈夫かなってみんな思ってたんですよ」
(おい流川)あの男の悲惨な高校時代が目に浮かぶ。きっとバスケットと女子にモテる以外、何も出来なかったに違いない。
「でもこの前働いてるとこ見て安心しました、ご飯もすごい美味しいし!」
「……ありがとう、ございます」?
「流川くんのこと、よろしくお願いしますね」
はるこちゃんらそう言い残し、自テーブルに戻ってゆく。よろしく、って言ったって。何をよろしくすればいいのだ。アメリカにいるあの男は電話のひとつも寄越さないし、日本でグズグズするわたしはメールのひとつも送れない。