カツンカツンカツン。低いヒールが、金属の階段で音を立てた。日が暮れても気温が高くなってきて、今夜は寝づらそう。
「……流川」
「先輩、送ります」
ガードレールに腰掛けて、流川はカバンを左に背負ってた。クタクタのスニーカーで、白いTシャツが眩しい。何着ても似合うなあなんて、私ももう絆されてんのかしら。「うん」並んで歩き出す。木曜日の夜は、いつも少し、眠れない。
23:00を過ぎた夜は、人も少ない。酔っ払い、学生。キャバクラのキャッチ。コンビニと本屋の明かりだけが見える街並みに、大学生になってすっかり慣れた。流川は眠そうに欠伸をして、送らなくてもいいんだよという私の言葉に首を振って歩き続けた。
「テスト大丈夫だったの」
「なんとか」
良い友達がいるんだろう。落単パレードじゃあ部活にだって支障が出る。よかったね、と言うと、うんと頷いて欠伸。流川って猫みたい。飼い猫っていうより野良猫。自由で自分の思うままに生きてる。私は羨ましいのかな。自分の思うままに生きてる彼が。
「私の後輩もバスケットやってるんだけどね、流川のこと知ってたよ。すごい選手なんだってね、この前も言ってたし」
「誰すか」
「神宗一郎。知ってる?高校の後輩なの」
少し驚いた顔で頷いた流川は、宗ちゃんを知ってるらしい。やっぱり宗ちゃんもすごいんだ。
「先輩って高校、」
「海南大附属」
「……マジか」
流川は、湘北だって大昔に店長が言ってたな。割と近いし、高校時代も大会で当たってたのかも。うちの高校バスケットめちゃくちゃ強くていつも表彰されてたし。確か1個下の代は全国準優勝だっけ。宗ちゃんが言ってたぞ。
「私って結構すごいね」
神宗一郎と流川楓。ビッグネームとふたりも知り合いだ。もっとドーンと自慢出来るように、ふたりとももっとビッグになってくれ。盛大に自慢しようっと。
「……そういえば、流川、アメリカ行くの?」
この前、宗ちゃんが言ってた。バスケットボールの本場がアメリカだってこと、日本のレベルが全然高くはないこと。いくら無知無知な私だって知っている。だからアメリカに行くことは、きっとバスケットの道を進む流川にとって、すごく大切なことなんだろうなって分かるけど。まだ19だし、私よりふたつも年下だし、まだ、まだ早いんじゃないかって。根も葉もない噂だったら良いのになって、私はそう思ってた。だから、コクリと頷いた流川を見て、(ああ、やっぱり)悲しくなった。
流川に惚れたなんて思ってないのに、泣きそうになった。流川が最後に、〈好きだ〉なんて言うから。