「流川さん休憩あと10分ですよぉ」

ガチャリと扉の開く音と、同時に高い声。顔をあげればヒロタがいた。分かってると頷くと、ヒロタはロッカーから携帯を取り出して、俺の向かいに座った。キラキラ光ってるなんだあれ。シールか、あとで先輩に聞いてみよ。どうしたって、ヒロタ本人に聞く気にはならん。俺はあと10分と思いながら、もう一回顔を伏せる。ねみぃ。ただいま20:00。勤務時間は残り3時間。長い戦い。ボールを持ってりゃあ時間なんてあっという間なのに。(むしろ足らねー)

「そういえば、先輩にちゃんと言ったんですね」

何を。と思って、この前来たメールを思い出す。

〈差出人:広田すず〉
〈昨日のお客さん見て先輩誤解してるかもですよ〉

丸い顔がウインクをするヘンテコな絵文字と共に、こいつちょっとヒロタに似てると思った。そんなことより。昨日のお客さん。先輩。誤解。──赤木のことかと思えた俺は成長してると言っていい。それを受けて、月曜日の言動へと繋がる訳だが、それでヒロタがニヤニヤする意味は知らん。実力不足。

「先輩って案外分かりやすいから」

ヒロタのことを先輩は可愛い可愛いと言うけれど、俺から見たら女なんて先輩以外は全部同じ顔に見える。でも先輩だけは違うから。それは多分今まで知らなかったことだ。

「……」
「まあ、流川さんもですけど」
「……うるせー」

立ち上がる。時間は20:10の2分前。もう行こう。先輩が働いてるし。客も増えた。早く働こうと思えた。誰かさんのおかげで。