『流川って私のこと好きだったの』
驚いてそう聞いたのは、失礼だったかもしれない。でもそのくらい驚いたのだということを伝えたい。コクリと頷いた彼を見て、クラクラと目眩がする。流川って言ったら、イケメンで高身長で運動神経抜群で、チャラチャラしてないし、女の子にモテそうな要素をこれでもかと詰め込んだような人類だ。その流川楓が私を好きだなんてどんな天変地異だと問いたい。
『すごく、嬉しいんだけどね、わたし流川のことそういう風に考えてなかったので』
好きとか嫌いとか、そういう次元に流川を置いてなかった。イケメンだなあと思う感情は恋愛とは別のところにある。女ってそういう生き物。
『じゃあ今日から考えろ……ください』
『えっ』
『あきらめねー』
好戦的な彼の瞳に、私は心の中でため息をついた。若干厄介そうではあるが、これでもやっぱり流川のことは嫌いになれないのだから仕方ない。だがしかし、そもそも好きだなんだと語るなら、それなりに相手に態度で示して然るべき。その努力を怠って我が物にしようなど言語道断である。
『好きなら口説いてみなさい』
ぶいっと、ピースを返す。私は流川の本気を見誤っていたのだ。無口でぶっきらぼうで、何もしなくても美女を彼女にできる男がこんな普通の女に本気で落としにくるなんて、露ほども思っていなかった。精々彼の今後のために教育してやろうと、そんな浅ましく愚かなことを考えていたのだ。
オーマイゴット。
▲「流川さん、もう告白したんですねぇ」
嬉しそうに声を弾ませ、ため息を零した私の顔をのぞき込んだのは天使だ。訂正、すずちゃんだ。
「もう、……って、すずちゃん知ってたの?」
「だってバレバレでしたもーん」
ピロンとハートマークのウィンク。バレバレとは。…恐ろしい子!現役女子高生って侮れない。
「ふっちゃったんです?」
「そう、なるのかなあ」
「もったいない!」
「いやそれがさ、」
あれがこうなってこうして。簡潔に言うと、彼にチャンスを与えてしまった。その結果、今日はおはようの瞬間から今の今まであつーい視線を送られる羽目になっているのだが。私は口説けと言ったのであって、見つめろとは言ってない。妙に落ち着かないから辞めて欲しい。「先輩意外とやるぅ」じゃないよ、全く。
「まあ流川さんに甘いセリフとか無理ですからね」
すずちゃんはルンルンと嬉しそうに流川の方を見やり、笑った。頑張ってください──とは、君はどっちの味方なんだか。あの視線に今後晒され続けるのかと思ったら、また頭がくらくらする。伝票を確認しつつ、流川の方をチラリと見れば、ピタリと目が合う。流川は静かに微笑んだ。
「もう……」
オーマイ。格好よ過ぎる。