いつも通り、木曜日、バイトの時間。春季リーグも残すところ1試合。チームは順調、俺も好調。店長は無理せず休んで部活に励んでくれと言ったが、先輩に会えるならまーいいか、と筋トレ終わり電車に揺られやって来た。なのに、肝心の先輩は休み。店は忙しさの極みで、厨房の店長は俺に気遣う余裕もなく右へ左へ。斯く言う俺も、ヒロタと2人店の中を駆け回ることになった。

「先輩のおにぎりが良かったですか?」

バイト終わり、ヒロタは白い皿をズイっと差し出しながら笑う。店長の作ったまかないの焼きそば、おまけにヒロタのサンドイッチ。綺麗に三角に切られたパンにはハムや卵、レタスにトマト、彩り良く作られていて、俺の母さんが作るやつに結構似てる。味はサンドイッチ。俺はもうちょい塩っぱくていいケド。

「まあ……」

否定するのも面倒だし、嘘ではねーし。ヒロタは馬鹿正直な俺を見て声を出して笑った。先輩とは違う、女らしい女の笑い方。今日はいつになく、先輩を思い出す。なんでだ。ヒロタは目尻に涙を浮かべながら(何がそんなに面白いんだか)サンドイッチをぱくついた。うん美味しい、と頷きながら。俺だって不味いとは言ってねー。

「いつからですか」
「……」
「先輩のこと、いつから好きなんですか」
「……さあ」

女って、なんでこういう話が好きなんだ。彼女がいるとかいないとか、好きな奴がいるとかいないとか、それを知って何になる。いつから好き、とか別に覚えてない。それにヒロタにも関係ない。無言で焼きそばを平らげていく俺を見て、ヒロタはふうっとため息をを吐き、「本当に分かりやすいですね」と笑顔で嫌味を零し、何のことだと思っていたら、「私や店長と会話してるとき、先輩と会話してるとき、今度ムービー撮って送ります」だと。こいつも大概エスパーしてる。

その後も、黙々と食べ進める俺の目の前で、ヒロタは流川さんってバスケットにしか興味ない系の人だと思ってたのに、と中々失礼な言動を繰り返し笑った。まあ俺もそう思っていたケド。

「先輩ってああ見えてにぶちんですから、ちゃんとハッキリ伝えた方がいいですよ」

この前も割とガチでお客さんに口説かれてたのお世辞だと思ってたし。──俺がいない間に、何してんだどあほう。あからさまに顔を顰めた俺に、ヒロタはまあ頑張ってくださいねと他人事。女のスイッチの切り替えの速さにはついていけん。どんなドライブしてんだか。

「ヒロタ」
「はい?」
「サンキュ」

ヒロタは小さく微笑み、出ていった。