大学終わり。ジメッとした空気。すっかり取れた巻き髪。今日はこれからバイトだからまあいいかと電車に乗る。ブー。バイブレーション。〈差出人:流川楓〉珍しいこともあるもんだ。

〈今日部活長引いてバイト遅れそうっす〉

淡白で物足りない。流川がこれを話してる姿が容易に想像できる。私は周りに気付かれない程度に小さく笑った。

〈宛先:流川楓/件名:訂正版〉
〈今日部活が長引いて遅れそうです。すみません〉

店長に送るべし、と。打ち終えて、パタンと携帯を閉じる。彼の覚束無い敬語は改善されることなく、梅雨も中盤に差し掛かった。改善される前に私たちが慣れてしまったのが結構問題なのだけれど、そこんとこも最近じゃ有耶無耶だ。


裏口のドアを開けると、すずちゃんが優雅にクッキーをつまんでいた。すずちゃんがニッコリ笑いながら、「おつかれさまでーす」と声を上げる。彼女がいるだけで、倉庫みたいな控え室にブルジョワジーな香りがしてくるんだから摩訶不思議。いや、世の中の真理と言うべきか否か。

「先輩、今日流川さん遅れるそうです」
「そうなんだ」

面倒くさくて知らんぷり。湿度の高い日は化粧が保たないから嫌い。アイラインとマスカラを直すと、店長が入ってきた。

「今日流川遅れるって」
「いま聞きました」
「てことで代わりに17:30から団体よろしく」
「げ」

それは例のおばさんたちでは。流川案件でしょうが。くっそう、と思いながらも言える訳もなく、着替えを手にロッカーへ。

「すずちゃん見てこれ、流川からの」
「流川さん、すみませんとか使えたんですねー意外」
「それね、俺も思った」

控え室からこんな会話が聞こえてきて、私は頭を抱えたくなった。