流川楓と同じ大学であることを知ったのは、つい最近だった。
週に一度(たまに週2)、バイトに出る彼は、バスケットボール部に所属していて何やらすごい選手であるらしいということは知っていた。店長の受け売りで。忙しい部活も、木曜日はトレーニングのみらしく、彼は基本的に木曜の夜だけ社会勉強という名のアルバイトをしている。高校バスケットの大ファンだと語る店長が、週イチという、おおよそ採用基準に満たない希望も、流川君なら、とOKしたと言うのだから相当に名のある選手なんだろう。と思う。すごいなあくらいの認識しかなかったが、まさか私と同じ大学だとは。運動方面全般的に強い大学であるので、何ら不思議はないけど、知っていたなら、店長なり、流川なり、もう少し早く教えてくれても良かったのではないか。
私と流川の働く居酒屋は、立地的に私の通う大学の生徒が働いていても別に驚かない。電車も1本で来れてとても便利だ。現に、私がここに入りたての頃(ピチピチエイティーンのとき)は先輩にもちらほら同じ大学の人がいた。その人たちが卒業してからはめっきりいなくなってしまったけど、そんな話、前にも店長にもしたし、すずちゃん(バイト先の後輩。私の5つ下の高校生。すごく可愛い)にもしたぞ。
〈あ、こいつお前と同じ大学だとよ〉
くらいあって然るべきだ。流川のアルバイトが始まって、もう1ヶ月は経つし、…となると少なくとも4回は顔を合わせたし、いい加減顔と名前も覚えてもらったし。
「先輩、厨房ヘルプー」
「…あい」
まあ、いい。許す。
▲同じ大学と言っても、顔を合わせることはない。我が大学はキャンパスだけでも3つ、私の通うキャンパスには学部棟が6つある。授業時間は兎も角として、休み時間になればそこら中、人だらけのマンモス校だ。私が卒業するまで、あと2年もない訳だし、私はどんどん授業も減っているから、会うこともなく終わるんだろうなと思ってた。別に構わない、木曜日が来れば会えるし。ていうか、無茶苦茶会いたいわけじゃないし。うん、まじで。
「ちょっと、イケメン発見」
「どれ」
「あれ」
お昼休みの学食でホットコーヒーしか頼まないという、正常な人間とは思えない行動をして見せた友達は、頬杖をついたまま顎であれを指した。私はひたすらに食べ尽くしていたカレーライス(中大皿)から目をそちらに向ければ、あらびっくり。流川楓である。
「え、流川」
「……うす」
「何、知り合い?」
「流川って私と同じ大学って知ってたの?」
「(コクッ)」
「まじかあ」
「…無視?」