人と動物の性交という、この世の事象とは思えぬものを全員で目撃し、晴れて、谷垣の無罪が証明された夜。宴の終わったあとのチセは、男達の鼾だけが響いていた。親子のようにアシリパを守って眠る杉元を見て、名前は小さく微笑む。尾形はそんな名前の腰を、するりと自分の方へ引き寄せた。
「アシリパちゃんはやっぱり女の子なんですね」
酒に飲まれた野郎共は起きないだろうと、名前はいつも通りの声の大きさで、尾形に話しかける。尾形が急になんだと言うので、名前は釧路に着いたばかりの時のことを言った。杉元が、何故金塊を探しているのかと聞かれ、惚れた女のためだとかなんだと尾形が揶揄い半分で言った時に、アシリパが慌てて話を逸らした時のことである。尾形はそれを思い返し、ああ、あの時のことかと頷いた。
「あんなこと聞いたら、そりゃあ妬けますよね」
名前の柔らかな笑い声が聞こえ、尾形は手探りに名前の腰から肩へと自分の手を移した。無駄話だと切り上げるように、尾形が名前を引き寄せ、寝ろと言った。明日も早い。寝坊など、しては大変だ。名前はされるがままに尾形の方へ体を預けた。
「…尾形さんは何で金塊を探してるんです?」
そんな雰囲気を察することなく言葉を続けた彼女は、この時、ほんの少し酔っていたかもしれない。何せよ、久しぶりの酒で、心地が良かったのは事実だ。おまけに肩に触れる手が熱くて、何だかそわそわと落ち着かない気持ちだった。尾形は何もかも分かっていてなのか、その質問を鼻で笑うと「惚れた女のためさ」と心にもないような口調で言った。半分冗談、半分本気。だがそれは、彼女が知る必要は無いことだと、尾形は考えていた。
「──妬けますね」
名前もまた、冗談のように言葉を返した。尾形はそれが気に入らなかった。尾形が、壁に寄りかかるように体を横たえると、それに合わせて名前も体を倒した。久しぶりに土の上でないところで眠るなと思いながら、尾形はもうひとつ言葉を口にしようとして、止めた。お前はどうして自分と共にいるのかなど、愚問だ。名前と尾形は鶴見という男と、軍を憎む、言わば同志であり、共に過去を腐らせた仲間である。余計な問答は必要ない。尾形は名前から不必要な言葉は聞きたくなかった。傷つくのもうんざりだった。だからもう、何も話す気はないのだと示すように、目の前に横たわる女に背を向けた。そのまま暫く黙っていると、名前は尾形が寝たと思ったのか、小さく「おやすみなさい」と口にし、やがて静かな寝息が聞こえてくる。「おやすみ」だなんて、言ったこともないくせに、何故かその晩は、それを言わなかった後悔が、いつまでも尾形の心をちくちくと刺した。