鳥達の囀りで目を覚ました尾形は、ふと、昨晩手繰り寄せたはずの温もりが無くなっていることに気がついた。人質というなら自分を連れていけと、時々無茶を言う彼女だが、そう思うならもっと大人しくしておいてくれと、尾形が溜息をつく。腹は痛むが、名前の手早い処置のお陰で、何とかなりそうだと、身体を起こした。ちょうど良いところで、がちゃりと扉が開く。そこから顔を出した名前の手には、温かそうな粥の入った器が二つ。

 ずり落ちた毛布を適当に丸めて端に寄せると、それを見た名前が、皿のひとつを尾形の前に置いて、毛布をきっちり畳んで、鞄に括り付けた。

「傷、見せてください」

尾形が皿に伸ばしかけた手を引っ込めると、名前はずんずんと近寄って、服を捲る。包帯には血が滲んでいたが、塞いだ皮膚は腐っていない。この分なら、膿むこともないだろうと安堵する。

「強い軍人さんは、治りが早いです」

満足そうに微笑む彼女、その隣で尾形は今度こそ粥に手を伸ばす。いつかの病院食のような味だと思ったが、あの頃よりいくらか美味く感じるのは、隣にいる彼女のお陰だろうか。自分も随分甘くなったものだと自嘲して、粥を啜った。

「普通だ」
「普通は、撃たれたら死にますから」

即座に否定され、確かにそうだと納得する。自分自身、幾度も壱発で敵を葬ってきた。

「…不死身って呼ばれる奴もいるくらいだしな」
「ああ、たしか、杉…村、杉下さん、あれ、誰でしたっけ。ほうら、第一師団にいらしゃった、」

叔父の繋がりで、軍部のことはよく知っているはずだと思っていたが、流石に、別師団の男の名前までは正確には覚えてない。名前が訊ねる。噂によると、とても強く、まるで鬼のような戦いぶりだとか何とか、って。せがむような視線を向けられ、尾形はそれを笑って一蹴した。

「さあ、忘れたな」