優しくゆっくりと、小さな頭を撫でるその手は、大きくて皺だらけで、ゴツゴツとしていた。他に覚えていること。あの人の近くは、いつも煙の匂いがした。煙草の煙なのか、硝煙だったのか、まだ、年若い少女には分からなかった。
「ああ、綺麗だよ。名前」
卒業祝いにと、あの人が買ってくれた西洋の服は、妙にヒラヒラしていてずっしりと重たかった。私は洋服にも舞踏会にも興味はなかったが、私がそれらを好むことを、あの人が望んでいたことは知っていた。だから、私は洋装をまとって、父親代わりの叔父の前で嬉しそうに笑ったのだ。いつも。
「ありがとうございます、こんなに素敵なお洋服」
高さのある靴を鳴らして近寄れば、あの人は満足そうに私の腕を引いた。
「君の母親に、よく似ている」
伸ばしていた黒い髪を、寒気に晒された背中を、そして最後に、尻と太股を、あの人はたいそう愛おしそうに撫でた。うっとりとした表情で、本当に綺麗だと何度も呟きながら。
「叔父様」
「なんだい」
ただ、恐ろしかった。あの人の狂気に似たそれを、自分に向けられることが。あの人の手を取って微笑む私を、見つめる、慈愛の込められた黒い眼が。
「大切にします、本当にありがとう」
いいんだと言いながら、彼はまた私を抱き寄せる。この人が私に対して抱く気持ちが、家族に向けられるそれと違うことなど、出会った時から知っていた。だって、それは、彼が母に向ける薄気味悪いものと、そっくり其の儘同じだったから。私は、母によく似ていた。すべて分かっていて、知っていて、それでいて、私は彼に愛される道を選んだ。
「叔父さま大好きよ」
あの人が去った後、もらった洋服からは煙の匂いがした。次の日、髪をバッサリと切り落とした私を見て、ぴくりとも表情を変えないあの人は、本当に恐ろしい人だった。