光に、終わりはあるか。白い光の中、真っ直ぐに続く道を歩いた。
道の先、大きな背中。皮肉にも、後ろ姿だけなら誰かさんに似ているものだから、くすりと笑った。足音は、しなかったはずだから、彼は気配で気付いたのか振り返り、私に向かって、煙草を持った右手をあげた。
「よ、待ってたぜ」
さて、これは誰が用意した道か。
はじめまして。当たり障りのない言葉。
「どうにも初めてって感じがしねぇなあ」
人の良さそうな笑顔を見せる彼に、私も頷く。奇遇にも、私も、はじめましてな気がしない。
彼、——ドンキホーテ・ロシナンテ——のことは知っていた。前世、存在だけは認知していた。ドフラミンゴの実の弟、海軍のスパイで、トラファルガー・ローの恩人。実兄に殺された。この世界に生まれ落ちた後は、二度。ドフラミンゴさんの船室で、そして、船長さんとの思い出話の中で。彼は、いや彼等は、心底大事に、この人との思い出を抱えて生きている。
「あんまり時間がねぇんだろ」
「いやあ、私にはわからなくて」
こんなところに長くいてはダメだ、言いながら彼は2本目のタバコに火をつける。俺みたいになっちまうぞ、ってそれは冗談でも笑えない。彼は、私を待っていたと言う割に、さして話すこともないらしく、どっぷりと煙草の匂いを吐き出しては、私のことをじっと見つめている。
「ローは、元気そうだな」
私が頷く。彼はそうかと嬉しそうに微笑む。ずっと、ここから彼を見守ってきたのだろう。一人きりで。
「まさかアイツがアンタをなぁ、……やっぱり、変なとこだけドフィに似ちまってる」
煙草は、得意でないはずなのに、彼の匂いは嫌な気持ちにならない。それどころか、泣いてしまいそうなほど、寂しくて暖かい気持ちになる。
「アンタも大変だな」
「そうですかね」
煙草を靴底で踏み消すと、彼は大きな手のひらで、私の頭をなで付ける。きっと、煙の匂いが、髪に移ってしまうな。まあ、いいか。どうせ、これは夢だ。
「ローを、頼んだ」
せっかく、一つの荷を下ろしたと言うのに。
「貴方だって、これからもずっと見守っていてくれるんでしょう」
「アイツが忘れねぇうちは、そうだな」
両腕を広げて、互いに最後のハグをした。温かい。でも、彼は生きていないのだ。そして、私はこれから生きてゆくのだ。彼に見守られながら。
「じゃあ、ずっと、ずっと見守っていてください」
船長さんが、彼を忘れることなんて、永久にありえない。
「ついでに、ドフィのことも、頼んでいいか」
欲張りだなぁと笑って、いいですよと言って、それでも何ができるかなんて知らないけれど、私は、きっと、この人の言葉を忘れずに生きるだろう。
「……それじゃあ早く行きな、ローに恨まれちまう」
お元気では違う。またねはあり得ない。さようならはあまりに悲しい。この別れに相応しい言葉が見当たらない。「笑って暮らせ」彼が、右手を上げる。私は、最後に行ってきますと返した。彼が、頷いて、背を向ける。背中の向こう側、ライターで、火をつける音がした。