待て、これは死ぬのではないかと思った時には地面が頭の上にあった。天地無用。それ意味違う。死ぬ前の人間が冷静っていうのだけは本当みたい。
「エ~~~スく~~~ん!ルフィ~~~く~~~ん!!」
私はなんやかんや言ったところで、生身の人間なので、この高さから落ちたら死は避けられない。問題。こういう状況をなんというか。答え、本末転倒である。
「名前~~~~!!」
「はぁ? 名前、おまっ」
ルフィくん嬉しそうに手振ってる場合じゃあ、多分ない。お互いやばい、死の淵だ。その時、エースくんが動く。何もかも、見透かしたように笑ったルフィくんは腕を伸ばし、私の右腕を掴んで引っ張った。わあ、エースくん手錠取れてるし。
「うわあ、」
ビヨーンと、ルフィくんに手繰り寄せられた私は、炎の中心にいた。やれやれと言った調子で、エースくんが息を吐く。どうやらルフィくんが飛ばないように掴んでいるのはエースくんだ。
「お前らは昔からそうさ、俺の言う事もろくに聞かねェで、無茶ばっかりしやがって!」
冤罪反対。私は確かに、度々彼に迷惑をかけていた自覚はあるが、彼に何か言われた記憶はないし、言われた事は聞いていた気がする。ルフィくんは、多分、エースくんの言う通りだけど。
「「「“火拳のエース”が解放されたァ!」」」
「3人揃うの何年振りだ?」
「10年振りだけど!今それどころじゃない!」
このまま黙って見逃してくれるような無能海軍であったなら、私は必要ない。再会の感動に浸るのはもう少し先にして。きみたち兄弟だけが頼りだ。
「戦えるかルフィ!!!」
「勿論だ!!」
なにこれ、感動する。泣きそう。
「名前は弾当たらないように引っ込んでな」
「言われなくとも」
一般人がいるのに、構わず銃を打ち込んでくるとは、不届きな組織である。足元を転がるように、処刑台の残骸に体を滑り込ませる。戦況は見るまでもなく、彼等の圧勝である。全く整わない息を吸って、吐く。時間の感覚など、遠に失せた。
外輪船の動く轟音。それを止めた衝撃が、マリンフォードを揺らす。
「お前らとおれはここで別れる! 全員! 必ず生きて! 無事新世界へ帰還しろ」
彼の覚悟が、偉大なる航路・最強の男の最期の言葉が、世界を揺らす。行けよと父がこの背中を押す。親離れの刻は、あまりに突然に。火拳から四皇へと銃口を変えたその先を追い、私も白ひげという偉大な男を見た。崩れゆくマリンフォード。歴史と心中するつもりなのだ。
「エース!」
ふらふらと、父の姿を求め、エースくんが歩き出す。ルフィくんが慌てて彼の名前を呼んだ。走ってきたイワンコフが私たちの姿を見つけ、早くしろと急かす。
「おれが親父でよかったか……?」
「勿論だ」
海の父子が、その最後の会話を終える。大地は揺れ、波は凪いでいた。