いつかの夕暮れ、神さまに問うた。わたしは好きに生きてもいいのか、と。愚かなわたしに神さまは答えた、好きにしろ、と。あの日から、好き勝手生きてきたわたしは、明日、ワンピースという世界の、大きな摂理を壊す。作者の決めた世界の流れを私は覆す、そう決めた日から、いくら考えたって、私の行動によって未来がどう変わるかは分からない。もしかしたら、より大きな不幸がこの世界を襲うのかもしれない。でも、それでも私は彼を救わないという選択肢を選ぶことはできない。何があっても彼を助ける。エースくんは、私がこの手で生かす。

「長かったか?」

神さまと出会った日から今日まで、たくさんの時間が流れた。長い長い時だった。でもそれは瞬きのようなスピードで、私の周りを駆け抜けて。

「あっという間でしたよ」

強がり、私は言う。神さまはそうかと興味のなさそうな返事をした。

「二人旅、楽しかったですね」

神さまは私を助けてくれる神さまではなかったけれど、ひとりよりふたりの方が楽しいと、当たり前のことを教えてくれた。

「……わしゃあ、もう寝る」

神さまのくせに、素直になれないんですね。って笑いながら、さようならと言った。神さまはちらりと私の方を振り返って消えてしまった。



夕日が沈み、ノックの音で目が覚める。いつの間にか寝ていたようだ。ドアを開けると、マルコさんがプレート片手に立っていて、飯だと一言それを差し出す。お礼と共に受け取った。いい匂いだ。

「それを食べたら、外輪船の方に移動するよい、ここは危険すぎだ」
「わかりました」

主戦場となるモビーディック。私としても、後から登場する外輪船の方が都合がよい。あくまで冷静を装う私に、マルコさんは、怖くねぇのかと尋ねた。恐れのない人間など、人間ではない。恐怖はやさしさの一番近くにある。だから怖くても、為すべきことがあるのなら、その恐怖に打ち勝つことはできるはずだ。

「エースくんが、怖い思いをしてないかって、そればっかりが怖いですね 」

マルコさんの目を見つめ返す。彼はちょっと驚いたように目を丸くして、それから唇を横に結んだ。

「……馬鹿だねぃ」
「本当に」

私も彼も、もっと賢い生き方はあっただろうに。馬鹿と私欲を貫いてここまで辿り着いた。だから最後まで、愚かなままで。他の何でもなく、私がそう望むから、エースくんは、死なせない。