「どうしてそこまでアイツにこだわる」

全員が命懸けなきゃならねぇ、そんなことは分かっているんだろう、と海の王が私に問う。承知の上で、私はここに居る。命のひとつくらい、彼の未来に懸けてやる。

「お嬢ちゃんがわざわざ出ていかなきゃならねぇ理由は何だ」

厳しい質問だ。確かに、彼の言う通り。この海最強と謳われる白ひげ海賊団の総力を持って、エースくんを助けにゆく。そこに小娘一人加わったところで何になる、とこの世界の誰もが思うだろう。でもその最強の一団を持ってしても、私の知りうる限り、彼は助けられない。だから強引にでも私はその未来を変えなくてはいけないのだ。

「貴方たちが、そう思っているように、エースくんは私にとっても家族みたいな存在で、彼の育ての親と、何があっても味方で、私が彼を守る、って約束したんです」

足りないものばかり。それでも、他にできることは私にはない。

「私が行かなきゃ未来は変わらないから、だから、行かなくちゃならないんです」

白ひげさんは、私をじっと見つめ返し、言葉の真偽を見定めいるようだった。重く永い時間が、ずっしりと双肩に伸し掛る。ごくり、と唾を飲み込む。

「あの馬鹿息子は俺が必ず生かす、その後のこたァ、頼んだ」
「……え」
「マルコォ!」

余裕を湛えたその笑みの裏に、何を隠しているのか。何度生まれ変わったって分かりっこない。

「このお嬢ちゃん、どっかに隠しとけ」
「了解」

いま、分かっているのは、この人が自分の人生の終着駅を決めているということ。生まれは選べないが、死に場所は自分で決められる。(ああ)ただただ悲しい、と思いながら、私は深く頭を下げた。

「ありがとうございます」



マルコさんは背中を向けたまま、船の奥へと進んでいった。何も問わないところから察するに、白ひげさんとのやり取りはある程度外で聞いていたのだろうか。

「ま、ここなら大丈夫だろうよい」

飯は別で持ってこさせる、短い間だから我慢してくれ、と彼は小さな物置の扉を開いた。

「ご迷惑おかけします」
「……そう思うなら忍び込んだりするんじゃねぇよい」

ごもっとも。すみません、と私が笑顔で謝ると、マルコさんは深くため息をつく。心労で早死しないか非常に心配である。

「頼むから大人しくしといてくれよい」
「承知してます」

本当に分かったのか、と疑われ。私の信用も落ちたものである。言っておくが、今のところひとつも嘘はついていないのに。