見つからないと思っていた訳ではないが、見つかった時の言い訳はよく考えていなかった。お久しぶりですね、マルコさん。なんて、気安く笑顔を浮かべて許される雰囲気ではなさそうだ。
「白ひげの船に無断で乗るなんて、殺されたって文句言えねぇよい」
うん、全くその通りで。さて、どうしよう
時間はあまりないが、悩んだ結果、身の潔白を証明するのが第一だろうと、とにかく敵意と悪意のないことを説明する。マルコさんはこう見えて話のわかる海賊なので、口を挟まず、最後まで私の話を聞いてくれた。
「……わたしを船に乗せてください」
「ダメだ」
が、やはり女を船に置くつもりはないらしい。白ひげ海賊団と言えば、看護師以外女を乗せないことで有名だし、その看護師さんたちですら、頂上戦争へと向かうこの船には乗ることを許されていない。どこの馬の骨かは分かるとは言え、私のような海賊でも何でもない女を乗せてくれる、なんて。たしかに虫のいい話である。
「それでも、諦めるつもりはありません」
「最後に補給に寄る島がある、そこで降りるんだよい」
「嫌です」
圧倒的に不利な立場とは言え、諦めない私の前で一番隊長が深く息を吐いた。
「エースもアンタも、頑固なところがそっくりだ」
マルコさんは頭を抱え、どう私を説得するか考えているようだ。わたしはエースくんを頑固者に育てた覚えはないが、似ていると言われれば否定できない。私たちは、守りたいものに、少しだけ固執しすぎなのだ。
「……おいマルコ、親父がそこのお嬢さんをお呼びだ」
「親父が?」
「ああ、連れてきな」
イゾウさんが、扉から顔を出し、用件を伝える。ちらりと私に流し目を送った彼は、パチリと電光石火のウィンクを置いて去っていった。恐るべき破壊力。美しいって罪。
「……って訳だ」
うんざり。今のマルコさんに文字をつけるならそんな感じ。
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部屋は異常な緊張感に包まれていた。管に繋がれた四皇白ひげとその前に正座するわたし。ドアに寄りかかるように、マルコさんが私と白ひげさんの動向を見守っている。いや、この場合見張られていると言うのが正しいか。
この偉大なる海の王の前では、私の存在など海底の石ほど、ちっぽけなものであると思わざるを得ない。ぐっとお腹の下に力を込め、どうにか気合いを入れ直す。
「目的は?」
一言。その重みだけで、船が揺れたのではと錯覚するほど、彼は威厳に充ちていた。取り繕った言葉など、何の意味があるだろう。
「エースくんを助けたいだけです」
恐れと不安。元より強さなど持ち合わせていない私だ、ただ目だけは逸らさぬように心の内を示す。
「邪魔はしません。どうか、……この船に乗せてください」
わたしの守りたいものは、この船のみんなと同じ。白ひげさんは、マルコさんに席を外すように言い、どっかりと座り直す。息が詰まりそうだ。