「……何してんだよい」
「あ、マルコさんこんにちは」
また録音したトーンダイヤルでエースくんが遊んでいるのかと思ったら、今度は本物のパイナップル1番隊隊長だった。キッチンお借りしてます、と言えばマルコさんは聞いた割に興味のなさそうな顔でテーブルに座った。ふたりでワイワイ遊んでいたらエースくんがお腹すいたと言うので、サッチさんに言ってキッチンをお借りすることにしたのだ。料理上手いってエースから聞いてるぜ、と言われたのでプレッシャー大。あんまり人のいないところで人の評判を話すのはよくないぞと教えてあげよう。
「マルコさんもいかがですか」
「……」
「……?」
「……頂くよい」
「どうぞ」
透き通るスープ、太めの麺。久しぶりのうどんである。
「……なんだこれ」
「うどんです」
日本が誇るジャパニーズフードだ。エースくんも大好き懐かしの味。麺はうどん用のものではなく、余っているから使っていいぞと言われたものだけれど、スープあってのうどん。味見したけど我ながら良い味だった。
「うま」
「ありがとうございます」
「で、あのバカはどこ行ったんだよい」
「隊員の方に連れて行かれたのでお仕事かと」
やれやれとため息をついたマルコさんは、一気にうどんを啜る。エースくんも、面が伸びてしまう前に来られれば良いけど、どうだろう。
「エースくん、マルコさんのこと本当のお兄ちゃんみたいに慕ってるんですね」
今日も、自分の家族について話す彼は嬉しそうだった。親父さんのことはもちろん、マルコさんのことも、アイツはすげぇんだとそれはもう目をキラキラさせて。
「俺にとっては大事な弟でも、アンタにとってエースは弟じゃないよい」
「え?」
「アイツも男だってことだ」
「ハハハ、……まさか」
からかっているのか、面白がっているのか、それとも真剣なのか。マルコさんは私にそんなことを言う。エースくんのことを弟だと思っているかと言えば、まあ思っているけど、大きくなったエースくんの逞しい腕にドキリとしたことも否定はしないし。うん、だってカッコイイ。
「私にとっても、エースくんは大事な人です」
それが弟だとしてもそうじゃないとしても。私は彼が好きだし、大切だし、ちゃんと生きていてほしいし、ずっと笑っていてほしい。その為に私は頑張るし、あの日、10年前にダダンさんと約束した日と変わらず、「だから、何があっても私はエースくんの味方だし、彼を守りますよ」そう決めている。
マルコさんは少し目を丸くして、そして、ふと笑いなにか小さく呟いたが聞こえなかった。その時、勢いよく食堂の扉が開き、エースくんが入ってきて私の手を掴む。
「名前、ちょっと来い!」
「え、ご飯は?」
「後!」
だから、私はマルコさんが「エースにはもったいない女だよい」と呟いていたことなど、決して知り得ない。