「うぎゃああああ」
「うるせーぞ」
「いや待ってじゃあ1回止まって待て待て待て」
掴んでいた肩をバシバシ叩くと、エースくんは渋々といった様子でストライカーを止めてくれた。大丈夫か?って聞いてるけどねアナタ、顔がニヤニヤしてんのよ……。たしかに気持ち良さそうだよね~とは言ったが乗せてくれとは言ってないし、そもそもこれは一人乗りじゃないのか。ストライカーと呼ばれる乗り物はエースくんの炎を動力に海の上をスイスイ進む、皆さんご存知カッコイイあれだ。名前なら軽いし平気だろの一言で担がれ、またも拉致監禁の勢いで後ろに乗せられた。これ気持ちいい云々の問題じゃなかった。速いし速いし振り落とされそうで怖すぎる。この世界には怖いものが多すぎるんだ。
「……もう船戻ろうよ」
「おぅし、じゃあちゃっちゃと戻るか」
「ゆっくり帰りたい……うぎゃあ」
「……名前、お前痩せたか?」
「お構いなくジョズさん」
なら良いんだけどよ。とジョズさんは楽しそうに笑うエースくんを見て色々察したらしいが、年長者は仕事が忙しいみたいだ。エースくんも(一応)2番隊隊長というご立派な肩書きがあるにも関わらず、私とばっかり遊んで。なんでも、2番隊の一部は病人が出たので先遣隊として次の島に早乗りしているんだとか。おかげで憎き黒ひげと会うことは叶わなかった訳だけれど。つまりエースくんはまとめる人達がいない分仕事がないし、割り当てられた仕事も隊長どうせ皿割るし洗濯物破るし飯黒焦げにするしと当てにされていないそうだ。それを聞いて私はたいそう不安になったが、戦闘の時は本当に頼りになる人だからと彼らは笑っていて誇らしくもあった。しかし、なんだってこんな生活力のない子になってしまったんだか。
「名前のそのカバン、何入ってんだよ」
「ええ、お金とか貰い物とか色々だよ」
泥棒にお金を盗まれた一件からお金は出来るだけ銀行に預けて、その他は肌身離さず持ち歩くことにしてる。エースくんは私のカバンの中からダイヤルを取ると、興味を示し、これなんだと尋ねた。
「空島のお土産」
「空島?」
「そう、聞いて──」
空に浮かぶ島のこと。不器用で孤独な神様がいること。このダイヤルを動力に色んなものを動かしていること。私が良き思い出を語ると、エースくんは目を輝かせ、「最高だな!」と笑顔を見せてくれた。
「俺も行きてぇー」
「船で行くには結構ハードだけどね」
なんか突き上げる海流に乗って行くんだっけ。やばくね。
「これどうやって使うんだ」
「ちょっと試してみよう」
エースくんの炎をフレームダイヤルに収めてみたり、マルコさんの声を勝手に録音して遊んで怒られたり、インパクトダイヤルが白ひげさんの斬撃を受け止めた時には船中から拍手喝采が起きたりもした。
「おーい、名前!」
「ん?……ぶはあっ!」
もう、髪ボサボサ!!超高速ストライカーで風を集めるのはやめなさい。