ふわとろで、ベリーグッドなアイスクリームを食べ終え、まだまだ退屈を持て余すエネルは次はどこに行きたいかと私に迫った。行きたいところは多分たくさんあるんだろうけど、どこに何があるか分からないし、うっかり森に入ってはぐれたら死ぬし、どうしようかと頭を捻る。その時、ちょうど風が運んできた潮の匂いに、私はパチンと手を合わせ、彼を見上げる。空に浮かぶ海が見たい。思ったことをそのまま伝えれば、彼はまたまた嫌な顔をして、しかし、ハッキリと頷いた。

白い砂浜、青い海。なんだ、何も変わらない。私は拍子抜けに近い感情を抱えつつ、それでもその青さに感動を覚える。空が近いからだろうか、よりずっと青く見える。おまけに今日は天気もいい。時間もとうに昼を過ぎて、気温も適温。何から何までお散歩日和なのだ。

「こんな綺麗な海、少し羨ましいです」
「──海など、滅多に来ない」

恨み言のような台詞を聞こえなかったことにして、靴を脱ぎ、靴下を中に突っ込んだ。

「あ」

……柔らかい。晒された素足を海につける。水は冷たく、底はふわふわと柔らかい。なるほど雲そのものだ。おい、と止める彼の声をまた無視して、1歩2歩と、歩みを進める。膝まで海に浸かったら、気持ちがよくて、海辺で遊んだ幼き日々が自然に呼び起こされる。傾いた太陽。青い海。ベタつく風。時間が経てば母が迎えに来る。海は父だった。島を出たまま帰らない父の顔を、知っているはずもない。それなのに、海にいれば一番に会えると信じて止まなかった。今となっては、すべてが尊い。

「かーみさまー」

振り向いて、砂浜に立つ彼を見た。晒された上半身が眩しく、無機質な砂浜を彩っている。私が手を振ると、彼は口角を上げ、しかし手はズボンのポケットに仕舞い込んで頑なに出さない。

「少しも、ダメなんですか?」

意趣返しのつもり。あまりに幼稚。私が手を出して、こっちへおいでとやっても、エネルは歩き出さなかった。やはり海は苦手らしい。今は雷をゴロゴロする必要もないし、ちょっと弱っても大丈夫だと思うけど。

「勿体ない」

もう一歩、海の奥へ。まだ足はつく。捲っておけば、スカートも濡れない。

「あまり遠くへ行くな」

響いた声に、再度振り返る。
そうか、それが本音か。

「この海は底がない、嵌れば空から落ちるぞ」
「そういうの、早く言ってくださいよ」

私はバシャバシャ音を立てて、急いで彼の元へ戻った。