▽Penguin
錨を下ろす。いつもはぱっぱと済ませるくせに、今日はやけに丁重に行われた。ゆっくり、ゆっくり。名前とみんながハグでお別れをする時間を稼げ。錨担当の新人が、物凄い悲痛な顔で俺を見た。交代で戻ればいいだろ馬鹿野郎。そんなに寂しいなら、名前にギューってしてもらえよ。その代わり、船長にバラバラにされても俺はくっつけてやらねえからな。
「ペンギンさんはやります?」
「…………おう」
一応な。仲間として好きだし。仲間として。女として魅力的だと思わない訳ではないが、三徹明けみたいな顔の船長に睨まれたら、百年の恋も冷めるってもんだよ。お前やられたことある?俺はある。
「北の海より危ねぇんだからな、気をつけて行けよ」
「はい」
「食事も。名前なら大丈夫だと思うけど。金の管理もしっかりな」
「はい」
「あとは、」
まだ続けようとすると、名前は笑って、お兄ちゃんみたいだと言った。こう見えて、俺の方が年下である。知ったときは驚いた。童顔でもないと思うが、名前はあんまり年上って感じがない。
「ありがとう、ペンギンさん」
ご飯ちゃんと食べてくださいね。新しいコックさん見つけて、道具の場所はメモしておきました。食材に買うお金も考えてくださいね。お酒ばっかりはダメ。ああ、
「それと、──また会いましょう」
なあ、名前。いや、ペボ。新人、船長、シャチ、サンゴ、ヒトデ。みんな、俺泣いていいかな。言っていいかな。めちゃくちゃ寂しいんだが!!!
「またな」
「お世話になりました!」
大きな荷物を抱えて、小さくなる背中を見送る。新しい船を見つけて、また違う島に行くらしい。
「ねーキャプテン」
みんなが心の中でシクシクとハンカチを握りしめて泣いている頃、ペボは船長の隣であっけらかんと訊ねた。
「名前のこと好き?」
息を殺して、答えを待つ。
その時はすぐにやってきた。
「ああ」
ペボが嬉しそうににこーっと笑った。俺もきっと笑ってる。船のヤツらみんな。船長が帽子を目深に被り直し、買い出し行けよと言ったのを聞いて、声を揃えた。
「アイアイ!キャプテン!」
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