「おい、敵襲だ」
ドカンと扉が開けられて、顔を出したシャチさんはそう言い残すと直ぐに次のどこかへ行ってしまった。てきしゅうテキシュウ……敵襲。(あ、理解)さっきから甲板の方が騒がしいなと思ったら、敵の船が近づいているそうだ。普通にヤバくない?
「か、神さまー」
「知らん」
呼んだら直ぐにボワンと出てきたと思ったら、一言言い残してまたボワンと消えた。神様とは名ばかりに、一般市民を助けてくれない。この人が私を助けてくれた試しなんてないけど、役に立たなさが加速しているような気がする。もはや腹も立たない。悟りだ。さて、私はどうしたらいい。
下手に動いたらだめかなとか、部屋に戻って布団被ってた方がいいかなとか、思うことは色々ある。どうしようどうしようと、慌てふためいているうちに、食堂の扉がドバンと(壊れそうな勢いで)開かれて、船長さんが鬼の形相で顔を出した。
「奥でじっとしてろ」
「はい」
ハートの海賊団の船に乗って1年。敵の船に襲撃されたのは初めてのことである。奥にいろ、と言われたので厨房に戻った。奥、奥、ああ奥には食料庫がある。これ見てるのも料理人の仕事かな。守りきれる自信はないので、出来れば甲板で方をつけて欲しいな。ふうと息を吐き出した途端に、物凄い大砲の音がした。ワーワーと騒がしい音を聞きながら、食料庫の前の扉で頭を抱えて丸まっておこう。
・・
・
どのくらい、そうしていただろう。食堂の扉がまた大きな音を立てて開いた。本日3回目。確実に壊れた。なんかギイギイ聞こえるもん。コツコツと音を立てて迫り来る足音は聞き慣れたものとは違う。タラリと嫌な汗が背中に伝った。
「こんなところに女隠してるとは驚いた」
フンっと鼻で笑った男は汚い笑みを浮かべて私を見下ろしている。甲板でどうにかしろって言ったのに。(心の中で)カチリと音がして、顔を上げれば真っ直ぐ銃口がこっちを向いていた。うわお、これまた初めての経験だ。
「立てよ」
竦んで震える足に鞭打って、ここで立たなきゃ殺されると、壁に背中を貼りつけながら立ち上がる。怖いよお。
「いけねェこともねェな」
私の顔を見定めるように、男は顎を摩る。
「そこは食いもんが置いてあんだろ?」
ずかずかと近寄ってきた男の前に、立ち塞がり、気づいた時にはその行く手を阻んでいる私。おっとこんなことしてたらタダじゃ済まない。でも食べものを簡単に譲る訳にもいかないのだ。私だってお金をもらって働いている、社会人としてのプライドがあるのだ。
「どけよ」
怯んだ私を見逃さず、男は迷わず引き金をひいた。パンっと気持ちのいい音と同時に、左腕に弾がめり込む。痛いとかそれどころの話じゃない。なんだってこんな目に。私まだ19になったばっかりだぞ。こんな所で死んだらまた神様に叱られちゃうだろう。ああ、痛いなあクッソ。
「大人しくしてりゃ怖い目に遭わずに済んだのになァ」
本当に、その通りだと私も思うよ。でも、体が動いちゃったんだ仕方ない。仕方ないで死にたくはない。にしても、痛いなあオイ。
「Room」
静かに、カチリと刀が動く音がした。そして空気を切り裂く音。目の前の男の首がスパンと真上に飛んだとき、私は声も出ずに、後ろにひっくり返ることになった。