日曜日、部屋に置いてあった私物をカバンの中にまとめる。来週中にはここを出るつもりだ。片付けはしておかないと。すっかりガランとした部屋は物寂しい。ローグタウンに来て1年と少し、いつの間にか私も17歳だ。感慨深いものがある。
1年もの間ここへいたはずなのに、案外荷物は増えていない。古い服は捨てて、新しいものだけ持っていくつもりだ。増えたもの、──そうか、これくらいかと手に取ったのはひしゃげた細長いケース。あの日のバツの悪そうなスモーカーさんの顔はなかなか見ものだった。こんな17歳の小娘にこんなステキなものをくれるなんて。彼は本当にステキな人だったなあ。あと数十分の後には顔を合わせるであろうその大きな背中を思い出し、笑みが零れた。
「神様」
「…なんじゃい」
「楽しかったですね」
時々観光に島の外れまで行っていたの、私ちゃんと知ってるんですからね?
「そうじゃなあ」
あ、開き直った。
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あの日着る予定だったワンピースに袖を通し、首にネックレスを掛け、母からもらい受けた太陽のバレットを頭につけて、お店の前で待つこと10分。現れたスモーカーさんは少しだけ息を荒くしていた。お仕事が長引いたそうな。忙しいのに申し訳ない気もしなくもないし、海軍にはお休みという概念はないのだろうかと心配になる。この世界、絶対労働基準法ないだろうし。
「また待たせちまったな」
「平気です」
「今度は不審者見つけなかったか?」
「スモーカーさんがいるのにそうそう危険な人は現れませんよ!」
この前はドンピシャのタイミングで見かけたけれど、あれはたまたまだ。たまたま。この人はゆくゆくは捕縛率100%の守り人なんだから安心のはず。
パッとスモーカーさんの顔を見ると、右の頬から僅かに血が出ている。
「…また、」
あんまり何も考えていなかった。伸ばした左手は自然に彼の右頬に触れる。
「なっ、…」
スモーカーさんがだじろいでいたけれど、私は本当に何も考えていなかった。
「また危ないことしてたんですか」
彼の頬は少し熱い。ものの数十秒で彼の小さな傷を引き受けることが出来た。
「あんまりケガしちゃあダメですよ」
──そんなんじゃあ、いつか死んじゃうんだから。さっと手を離すと、スモーカーさんは反射的に私の左手を掴んだ。
「…何かしたか?」
彼の瞳は真っ直ぐで、今度は私が照れてしまいそうになる。
「ひみつです」
いつもいつもドキドキさせられていたのだから秘密のひとつやふたつ、彼と私の間にはあってもいいと思うんだ。あなたはどう思う?