名前ちゃん、生きてる!?」

荒々しく階段をかけ登る足音と、ドアが壊れそうな強いノック、おまけに裏返ったほとんど何を言っているのか分からないような店長の声で目を覚ました。寝惚け頭で何故こんなに店長が慌てているのか考える。すぐ分かった。昨日の騒動を聞いたのか、と。ベッドから這い出して、近くのカーディガンを羽織り、申し訳程度にボサボサの髪を手ぐしで整えた。

「…生きてます」

というか生きてなかったら、この人どうするつもりだったんだろうか。《旅の途中の16歳女子、通り魔に殺害!!》とか新聞に載ったりしたんだろうな。ニュースクーがそれも運ぶだろう。良かったあ、生きてて。

「良かったあ、心配したんだよ」
「すみません、なんとか無事です」

昨日ひどく打ち付けた腕も、左手でさすっておいたので寝たら治りました。傷の治りは早いのです。

「今日はお店休んでいいからね」
「そういう訳には…、」
「みんなも心配してるのに、働かされたら俺が怒られちゃうよ」

ハハハと笑って、店長はウインクをした。おじさんのウインクなんて可愛くもなんともないけれど、この人がするとなにか許せる。この人は本当に商売の才能もない料理とカクテルメイクの腕だけが自慢の頼りない人だけれど、人としてこんなに優れた人もなかなかいないだろうと思う。そういう人に出会えたことを、私は感謝しなければ。ダダンさんの顔がちらりと浮かぶ。忘れるわけないですよと囁けば、素直に引っ込んでくれた。元気だろうか、…元気だろうな。

「店長!」
「ん?」
「いつも、ありがとうございます」

頭を下げる。何もしてないよと彼は言う。優しい人というのは、得てしてそう言う生き物だ。



お言葉に甘えてゆっくり本でも読みながら休んでいた午後3時。おやつの時間だなと思って、普段はそんな時間もないし丁度いいやと近所のカフェに行こうと思い立った。適当に服を着て髪を結び、首には昨日貰ったネックレスをつけてみる。欠けた星が可愛い。これを真剣に選んでくれただろうスモーカーさんを思えば、何となく胸が疼くというものだ。

「ちょっと外出てきます、」
「はいよ、気をつけてね」

ランチからディナータイムの間に休憩をとる店長に一声かけて、外に出る。潮の香りがするこの街は海と共にある街だ。ステキ。前からずっと気になっていたケーキの美味しそうなあそこにしようと道を行けば、奇遇にもスモーカーさんの背中を見かけた。周りにも海軍の制服を着た人がいるのを見るとお仕事の真っ最中と見た。ステキ。

「…あ、」

スモーカーさんが気まぐれに振り返り、目が合った。私の姿を見つけると、フッと笑みを零す。私は照れ臭くなって何故か敬礼してしまった。