店長が買ってくれたワンピースは少々丈が短すぎて落ち着かない。この丈は前世でJKを謳歌していたあの頃以来だ。
「楽しんでね」
「はい!ありがとうございます」
優しい優しい店長に頭を下げ、少し早いがお店の前の道路で待つことにした。ローグタウンに来てもうすぐ1年になるけれど、お店の周り以外はあんまり行ったことがないからワクワクしてきた。美味しいものでも食べに連れて行ってくれるのだろうか、スモーカーさんならスマートにやってくれそう。
「きゃぁっ……!」
「え!?」
どこから女の人の悲鳴。周りをキョロキョロするも仕事帰りの男の人以外の姿なんて、どこにも。
…あ、──私の立っている位置から丁度死角になっているところ、細い路地の入口が見える。絶対にあそこだと思った瞬間には何も考えずに足が動いていた。駆け寄って路地を見れば、思った通り女の人に跨る大柄な男。完全に現場である。オーマイガー。
人として絶対に勝てないと思われる相手でも、誰かが助けを求めていれば自分に出来る最大をしなければいけないと思ってしまうのが、悲しき人間の性である。一先ず辞めなさい!と大声で叫ぶ。(誰か気付け、お願い気づいて。)こちらを見て一瞬驚いた様子の男に、持っていた鞄を投げつけて体制を崩す。
「海兵さん、こっちです!」
ハッタリかまして男が振り返った隙に、襲われていた女の人は無事逃亡。反対側から大通りへ。残されて固まる男と私。ちょっと待った、何故こうなる?死亡フラグバンバンだけども。
「えっ、と、…」
見逃してはくれなさそう。でっかく舌打ちをした男は私が大通りへ出る前にその大きなリーチで私に駆け寄り、掴んだ腕をそのまま乱暴に壁に叩きつけた。
「いっ、たい」
嘘みたいに痛い。
「餓鬼が調子乗ってんじゃねェよ」
あれれ、ゾゾゾと効果音をつけたように男の背後に黒いオーラが見えるし、勢いよく振り上げられた手の先はキラリと光ってるように見えるぞ。おかしいな。刃物持ってるなんて聞いてない。待って、これは死?
「……おい、」
真っ直ぐ私に向かってきていた刃がグインとありえない角度に逸れていく。響いた低い声は、いつものように優しいものじゃあなかった。
私が瞬きしてる間に殴られていたらしい男は、ペッと血を吐き出す。私から迫り来るその声の方へと矛先を新たにした男は言葉にならない声を上げて突進する。(私?腰抜けた)滅茶苦茶に振り回されるナイフを華麗に避ける人影。月が雲から顔を出し、その顔がハッキリ見えるようになった。
「…お前は、…」
「スモーカーさん!」
声で分かりましたよ、なんちゃって。本物の海兵さん登場の巻。
「俺の町で不貞を働くとはいい度胸だ」
呆気に取られる男を今度は120%の力で殴り飛ばし、めでたしめでたし。ああ、怖かった。